大学生が知っておくべき、学会の歩き方とは?【教授が紹介するシリーズ】

2023.04.07

皆さんこんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。皆さんは「学会」と言うと、どういうイメージを持っていますか?それぞれの学問の権威達が集まり、崇高で白熱した議論を交わす ― そんなイメージでしょうか。確かにそういった側面もありますが、実は学生さんも気軽に参加できるとても“楽しい”イベントでもあります。

学会が楽しい!?ちょっと不思議な表現かもしれませんが、当研究室の学生さんも初めて参加した学会の感想が「めっちゃ楽しかった!」でした。さて、学会の何が楽しいのでしょうか。一緒に見て参りましょう。

学会と学術集会 -ちょっとしたコトバの違い-

私は「日本分子生物学会」や「日本生化学会」に所属しています。所属するというのは、それぞれの学会組織に入会し会員になるということです。入会するには入会金が発生する程度で、研究者や大学教員、学生さんでも希望すれば入会できます。

学会組織によっては推薦状が必要なケースもあります。会員になると年会費が発生し、数千円から学会によっては一万円を超える額を払います。

学会組織では年に一回は学術大会/年会を開催します。学会会員等が一堂に集まり、研究発表を行います。これが一般の人がイメージしている「学会」ではないでしょうか。年に一回開催される学術集会/年会に参加するには、別途参加費が発生します。したがって、学会組織に所属し毎年学術集会にも参加すると、年会費と参加費が毎年発生することになります。3つも4つ学会組織に所属し、各学術集会に参加するとかなりの費用がかかります。

ただし大学生の皆さんにはぜひ知っておいて欲しいのですが、学会によっては、学生の間は半額だったり無料だったりします。例えば日本生化学会は学部生や修士課程の学生は、年会費は0円です。学術集会への参加費も条件が整えば無料になります。これは見逃せない待遇です。自分の興味のある学会組織のホームページは詳しく確認してください。この記事では、学術集会/年会のことを、以降は「学会」と表現して参ります。

まずは参加してみる

私が初めて学会に参加したのは大学4年生の時でした。京都で開催された第20回日本分子生物学会だったと思います。ホームページで確認すると、その時の年会長は本庶佑先生でした。皆さんよくご存じの2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞された先生です。私の発表があったわけではないのですが、「とにかく学会を肌で感じたい」と思い、ワクワクしながら参加したのを覚えています。

規模の大きな学会の場合、会場もとても広い場所で開催されます。分子生物学会や生化学会はパシフィコ横浜、神戸ポートアイランド、福岡国際会議場、国立京都国際会館などで開催されます。「学会発表」というと、舞台に上がり、大きなスクリーンに自分のプレゼンファイルが投影され、大勢の聴衆の前で口頭発表をする、というイメージがあるかもしれません。しかしそれだけではなく「ポスター発表」という形式もあります。これは大きな会場にボードが大量に並び、自分の研究内容をA0サイズ程度の用紙に印刷したポスターを掲示します。そして自分のポスターの前に立ち、誰かが聞きに来たら研究を紹介する、という形式です(図1)。

図1 学会会場でのポスター発表の様子

そしてなにより、自分の発表がなくても学会に参加することができます。つまり演者としてではなく、単に参加者として色々な人の研究発表を聞くことができます。学部生の段階では、なかなか学会発表できるまとまったデータはないと思います。まずは参加することで学会の雰囲気を味わうだけでも、十分刺激的な経験になると思います。その上で、せっかく参加するのですから、学びも大切です。次に学会での学び方を紹介したいと思います。

学会での学び方

規模の大きな学会だと、研究発表の演題数もとても多くあります。生化学会は3日で約2,000演題、分子生物学会は3日で2,500-3,000演題もの研究発表がなされます。とても全てを聞くことはできません。事前に戦略を立てて、効率的に学会会場を巡る必要があります。参加者が効率よく発表を聞けるように、学会は研究分野ごとに、いくつかの会場に分かれて進められます。A会場は「ゲノムと遺伝子」、B会場は「エピジェネティクスとクロマチン」・・という具合です。口頭発表もポスター発表も、うまく分類してまとめられています。

従って、まずは自分の興味ある発表の会場を見つけ出すことが大切です。ここで問題になるのが、同時刻に別々の会場で興味ある発表が行われるケースです。こうなると悩みます。その場合には、研究室メンバーで何名かで手分けをして講演を聞きます。みんなで分担して各会場で情報を集めて、研究室に戻ってから改めて情報を共有するわけです。

私が学生だった頃は、まずは事前に学会要旨集に目を通し、興味ある発表演題をリスト化しておきました。そして、そのリストを元に学会会場ではノートを開き、発表を聞きながら重要な点のメモを残しました。学会が終わって研究室に戻ってからは、特に興味深かった発表の要旨を印刷します。A4サイズの半分ほどに要旨を印刷し、残りの半分の空白にメモしてきた内容を清書しました。それを何演題分か作成して、ラボミーティングでみんなにシェアしました。この作業を研究室メンバーでやれば、聞けなかった発表の概要を勉強することができます。

今となっては、大きな学会であれば学会開催のたびに、その学会のアプリが作られています。検索機能、スケジュール管理機能、メモ機能が充実しています。より効率よく勉強できると思いますので、是非ご活用ください。いずれにせよ大切なのは、学会発表を単に聞き流すのではなく、記録として言語化し、自分なりにまとめておくことだと思います。

自分の研究を発表

学生の間に是非一度は学会発表を経験しましょう。学会で発表するには演題登録が必要になります。毎年11月頃に開催される生化学会は6月中旬が、12月頃に開催される分子生物学会は7月下旬が演題登録締切です。そう、学会発表するには、かなり早い段階で演題を登録しなくてはなりません。

演題を登録するには発表要旨が必要なので、その段階でかなりの実験データが出揃っている必要があります。言い換えれば、学会発表の演題登録を目標に、そこから逆算して実験データを揃える必要がある、ということになります。修士1年の秋・冬に学会発表を目指すのであれば、その年の夏には一通りのデータが欲しいところです。学部4年の4月から研究室に出入りし、そのままその研究室の大学院に進学すれば、修士1年でも学会発表ができる計算になります(図2)。自分の研究内容と親和性のある学会を探し、その学会の開催時期や演題登録締切をよく調べておきましょう。そして、先生や先輩と早い段階から相談して研究計画を立てれば、学生時代にもちゃんと学会発表はできると思います。

図2 学会発表を目指した実験計画

 

学会発表を通してコミュニケーション能力の育成もできる

学会に参加し、講演を聞いたり、ポスターを見たりするだけで終わらせるのはとてももったいないです。学会の醍醐味はディスカッションとネットワークの構築です。是非、演者の人と積極的にコミュニケーションをとって、どんどんディスカッションしましょう。

口頭発表の場合、質問する側もマイクの前に立ち、他の聴衆の前で質問することになります。そのハードルが高い場合には、そのセッション終了後にそっと演者のそばに近づいて、声をかけ質問してみましょう。できれば簡単に自己紹介し講演のお礼を述べた上で質問するのが良いと思います。ポスター発表であれば、もっと演者との距離感は近いと思います。気軽に質問ができるので、是非トライして下さい。

こういった学会での質疑応答は、新しいネットワークの形成につながります。先ほど「簡単に自己紹介」と言いましたが、ちょっとした接点が、のちに大きなネットワークに広がることがあります。普段、研究室に閉じこもり他の研究室の学生や研究者と接点が少ない人ほど、この機会は大切にして欲しいと思います。学会でのコミュニケーションが今すぐネットワーク構築に繋がらなかったにしても、「初対面の人と情報交換する」という素晴らしいトレーニングにもなります。

これは自分が演者になった時も同じです。ポスター発表で誰かに質問され一通り質疑が終わったら「ご質問ありがとうございました。せっかくですのでご所属とお名前を伺って宜しいですか?」と言ってみましょう。コミュニケーション能力の育成だと思って、是非実践してみて下さい。

企業ブースも情報が満載

大きな学会では、会場内に大規模な企業ブースが併設されます。企業ブースとは、その学会の関連業界の企業が出展する展示スペースです。学会の参加者は、会場内の企業ブースを巡ることで最新の技術や製品、サービスを知ることができます。学会の趣旨に合わせた展示やセミナーを企画することが多く、研究者による研究発表以外に、企業が提供する学術セミナーからも多くの学びがあります。場合によってはランチョンセミナーとして開催されることもあり、昼食が提供されることもあります。

また学生さん目線で見ると、ブースを回ることで自分の将来像の勉強にもなります。この業界ではどういう企業が活躍しているのか、どの企業がどういう技術や製品を提供・製造・販売しているのか、各企業の学術部門やカスタマーサービス部門がどういう仕事なのか、などを知ることができます。普段の学生生活では知ることができないので、学生さんにとっては新しい発見があることでしょう(図3)。

図3 企業ブースの様子

 

学会はちょっとした同窓会

大学生や大学院生の時代にはなかなか実感できないのですが、学会会場は年齢とともに同窓会会場にもなります。以前は同じ研究室で研究していた同期、先輩、後輩が色々なところで活躍しています。普段はなかなか会えないのですが、学会会場に出向くと会うことができます。留学先で知り合った研究者や、以前の恩師とも会うことができます。大きな会場で数千人もの参加者がいるにもかかわらず、会場の移動やポスター会場を歩いていると、本当に偶然出くわすのです。「おおー!久しぶり!」の挨拶から始まり、しばらくおしゃべりが続きます。

昔の同級生を思い出してみてください。多くの同級生とは、卒業式以降、ほぼ会っていないと思います。しかしお互い似たような分野で研究に携わっていると、とても嬉しいことに、学会会場で会うことができます。しかもそれは研究者としてのみならず、前述の企業ブースで再会できることもあります。研究室で学んだスキルを活かし企業に勤めた人たちが、学会会場では企業ブースの運営メンバーとして活躍しているからです。こういう形で懐かしい面々に会えるのも学会の楽しみの一つです。

ちなみに私は、2022年12月に久しぶりにオンサイトで分子生物学会に参加しました。私の学生のポスター発表があったので引率がてら同行しました。ポスター会場を学生と歩き「じゃ、次の会場に移動しようか」となり、その場所から動き始めました。しかし、ちょっと歩くごとに懐かしい顔ぶれに遭遇し、その場でおしゃべりが始まります。歩き始めるたびに誰かと会うので、一緒にいた学生からは「先生、全然目的地に辿り着けませんね」と言われました。

おわりに

COVID-19の影響で一時的にほとんど全ての学会がオンライン化されました。ビデオ会議システムを使って、口頭発表やポスター発表がなされました。学会のオンライン化当初、私は「このままずっとオンライン開催で良いのではないか」と感じていました。自分の興味ある演題だけパソコンで聞いて、あとは研究室で別の仕事ができるからです。交通費も宿泊費もかからず、体力的にもとても楽でした。しかし、徐々にハイブリッド開催になり、改めて現地開催の学会に参加すると、「やっぱりリアルの学会の方が楽しい!」と思いました。その最大の理由は「得られる情報量が格段に違う」という点が挙げられます。オンラインでも発表を聞けば最新の研究発表は知ることができます。しかし対面の学会では、発表以外の場でのコミュニケーションによって得られる情報の方が圧倒的に多いことに気づきました。直接話すことでより深い関係を築くことができ、多彩な情報を得ることができました。みなさんも是非、学会の楽しさを体感してみて下さい。

さぁ、学会へいこう!

【著者紹介】赤木 紀之(あかぎ ただゆき)

1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員DC1、UCLA医学部/シーダス・サイナイ医療センター血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より福岡工業大学工学部生命環境化学科教授。
海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事を兼任。

【主な活動場所】
Akagi Lab HPTwitterInstagramLinkedIn

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