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これまで紹介したガン免疫に対する好中球の役割を調べた論文のほとんどは、好中球はガン免疫を抑える方向に働くとする結果だった様に思う。
例えば、治療の難しい膵臓ガンの場合、間質に好中球が多いとキラーT細胞のガン組織への移動が阻まれることから、好中球をガン組織に入れない方法の開発が行われている。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、好中球も様々なタイプがあり、ガン免疫が成功するためには、ガン免疫を助けるタイプの好中球の参加が必要であることを示した研究で、3月30日号 Cell に掲載された。
タイトルは「A neutrophil response linked to tumor control in immunotherapy(好中球の反応は免疫治療でのガン制御と関わる)」だ。
この研究ではマウス肺がんモデルを用い、ガン免疫を高めるCD40抗体治療効果を調べていたところ、治療がうまくいった全てのケースで、CD40刺激後2日目に強い好中球の浸潤が起こっていることを発見した。
すなわち、ガン免疫を助ける好中球が存在することを強く示唆しているので、single cell RNA sequencingを用いて好中球を詳しく分類すると、全体で7種類の好中球に分けることが出来、ガンに対する免疫を助けるタイプはシアル酸結合レクチンSiglecの発現が高い集団であることを確認する。
逆にSiglec発現の低い好中球はこれまでガン免疫を抑えると考えられていたタイプに対応することも示している。
さらに、ガン免疫を助ける好中球と、抑える好中球は、かなり早い時期から分離しており、ガン局所での免疫反応が始まると、ガン免疫を助けるタイプの未熟好中球のガン組織への浸潤が促進され、それが成熟することで、 ガン免疫を助けることを明らかにしている。
このSiglec発現の高い好中球がガン免疫を助けるメカニズムについては、インターフェロンにより誘導される分子の発現が高いことに着目し、好中球のインターフェロンに対する反応性を変化させた遺伝子改変マウスを用いて、
免疫細胞から分泌されるインターフェロンにより誘導される分子が働くことにより、ガンを傷害するだけでなく、ケモカインを発現してガン局所の免疫を高める効果を持つことを明らかにしている。
最後に、Siglec 発現好中球がガン局所で誘導されるメカニズムについては、まずガンに対する免疫が起こることが必須で、この時樹状細胞のIL12によりT細胞が活性化し、この結果インターフェロンが分泌される結果、好中球がガン免疫に動員されることを示している。
以上が結果で、基本的にはガン免疫が高まってすぐの反応で、もっと長いスパンで見たとき同じような好中球がリクルートされ続けるのか明確ではない。
ただ、人間の症例を検討して、末梢血のSiglec発現の高い好中球が高い患者さんでは免疫治療による予後が良いことをデータベース解析から示しており、うまくいった場合はガン免疫を促進してくれる好中球が持続的にリクルートされてると期待できる。
いずれにせよ、細胞の機能を一つのステレオタイプに押し込めることの間違いを思い知らされる論文だった。