【恐竜博2023でも見られる!】 「最重量級」のティラノサウルス "スコッティ"

2023.03.11

こんにちは!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートを行っている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

 今年2023年の3月14日(火)~6月18日(日)に東京・上野の国立科学博物館、7月7日(金)~9月24日(日)に大阪・大阪市の大阪市立自然史博物館にて、「攻・守」という観点から恐竜の進化を紐解いていく【恐竜博2023】が開催されます!
 前回は「守」の代表でもある鎧竜類のズール・クルリヴァスタトル Zuul crurivastator を紹介しましたが、対する「攻」の代表には北半球と南半球から2種の肉食恐竜が選ばれました。その内、北半球の「攻」の代表、北半球の王者として展示されるのはティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex“スコッティ Scotty”というニックネームの個体の全身骨格レプリカです。

 ティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex (意味: 暴君トカゲの王)といえば、これまでに発見された獣脚類のなかでも最大級の肉食恐竜であり、1905年の10月4日に出版された原記載論文には「これまでに記載されたどの陸生の肉食動物をもはるかに凌ぐその大きさから、Tyrannosaurusという属名を提案する」と学名の由来が記述されているほど、その大きさは目を見張るものでした。近年では、成長病気や怪我噛む力スピード外皮の構造といったさまざまなテーマで研究対象となっている恐竜ですが、この恐竜を紹介する上でも「獣脚類のなかでも最大級になる大きさ」はやはり欠かせないポイントでしょう。

ティラノサウルス・レックスの3D復元

 

そしてこれまでに発見されたティラノサウルス・レックスの個体のなかでも、スコッティの全長と体重はともにトップクラスであると考えられていますので、今回はスコッティの基礎情報や展示をみるときの注目ポイントについて解説していきます。

スコッティの発見

 1991年の8月16日、カナダ中西部サスカチュワン州に分布する白亜紀後期の地層 フレンチマン層 Frenchman Formation がみられるフレンチマンリバー渓谷で、地元の高校教師ロバート・ゲハルトが当時ロイヤル・サスカチュワン博物館の古生物学者であったティム・トカリックとジョン・ストラーとともに、ティラノサウルス・レックスの歯の断片第21尾椎(尾の骨)を発見しました。そして彼らがこのティラノサウルスの化石の発見の際にスコッチウイスキーで祝杯を挙げたことが“スコッティ Scotty”というニックネームの由来となったのです。

その後1994年から2003年にかけて断続的に発掘作業が行われた結果、多くの骨化石(全身の約65%)が産出しましたが、この内1994年と1995年に発掘されて2003年にクリーニング作業が完了していた頭骨については【恐竜博2005】の開催に伴って実物の右半分が来日し、東京会場であった国立科学博物館で展示されました。そして2011年の3月9日に全身の化石のクリーニング作業が完了し、2020年に骨化石の記載論文が出版されました。

スコッティってどんなティラノサウルス?

 スコッティの紹介ポイントとしてまず挙げるのが「カナダから化石が産出した数少ないティラノサウルス・レックスである」という点です。

 実物化石にしろレプリカにしろ、ティラノサウルスの全身骨格や頭骨は世界中のさまざまな博物館で保管・展示されていますが、そのほとんどはアメリカ合衆国の白亜紀後期の地層、特にモンタナ州・ノースダコタ州・サウスダコタ州に分布するヘル・クリーク層 Hell Creek Formation から化石が産出した個体のものになります。例えば、ティラノサウルス・レックスの命名に使われた個体、有名な“スー Sue”、国立科学博物館の地球館3階の【親と子のたんけんひろば コンパス】に全身骨格レプリカが展示されている“スタン Stan”、国立科学博物館の地球館地下1階に全身骨格レプリカが展示されている“バッキー Bucky”、大阪市立自然史博物館にも頭骨レプリカが展示されているジュラシック・パークシリーズのロゴのモデルになった個体も、このヘル・クリーク層から化石が産出しました。

スタンの全身骨格レプリカ(筆者撮影)

バッキーの全身骨格レプリカ(筆者撮影)

ジュラシック・パークシリーズのロゴのモデルになった個体の頭骨レプリカ(筆者撮影)

 

一方、【1900年から2005年までに発見された、ある程度骨がまとまっているティラノサウルスの化石】についての2008年の研究によると、カナダでの大きな発見はスコッティを含めて僅か3点しかありません。しかしながら他の2個体にはそれぞれ“ハクスリー Huxley T. rex”、“ブラック・ビューティー Black Beauty”というニックネームが付けられており、ハクスリーの全身骨格レプリカは神奈川県立生命の星・地球博物館、ブラック・ビューティーの全身骨格レプリカはミュージアムパーク茨城県自然博物館と福井県立恐竜博物館でみることができます。さらにスコッティ以外の2個体はお隣のアルバータ州から化石が産出したため、スコッティの発見を通してサスカチュワン州という地名を覚えることも可能です。

ブラック・ビューティーの全身骨格レプリカ(筆者撮影)

 

 続いて冒頭でも紹介したスコッティの全長と体重についてですが、スコッティの化石は全身が丸ごと発見された訳ではないため正確な全長は分かりません。しかしながら、全身の約73%が発見されたスーを含む他のティラノサウルスとスコッティの骨の大きさの比較が2020年に出版されたスコッティの骨化石の記載論文で行われた結果、肩甲骨の幅・骨盤にある腸骨の長さ・大腿骨の付け根の幅・脛骨と腓骨の幅などでスコッティの計測値はスーの計測値をほんの少し上回っていました。スーの全長は約12.3mとティラノサウルス・レックスのなかでも最大級なので、計測値を基にすると、スコッティも全長約12mクラスの最大級のティラノサウルスであったと推定することができます。

ティラノサウルスに限らず恐竜の体重については、生きた個体を体重計に載せることが不可能なので、これまでにさまざまな計測法が編み出され、多くの論文が出版されましたが、スコッティの推定体重については2014年の研究論文(スー: 約7.4t、スコッティ: 約8t)と先述した2020年のスコッティの記載論文(スー: 約8.5t、スコッティ: 約8.9t)においてスーの推定体重を上回る数値が出されたため、「スコッティはこれまでに発見されたティラノサウルス・レックスのなかで最も重い個体である」と考えられています。さらに2020年のスコッティの記載論文では、スコッティたちティラノサウルスのみならずギガノトサウルスやアクロカントサウルスなどの他の大型肉食恐竜の推定体重も大腿骨の長さと円周から割り出しましたが、他の大型肉食恐竜の推定体重と比較してもスコッティの推定体重である約8.9tは最も重い数値となりましたので「ティラノサウルス・レックスは肉食恐竜のなかで最も重い恐竜である」と考察されました。

 またスコッティの成長度合いについては、2020年のスコッティの記載論文で「老齢の個体と考えられているスーと同程度、おそらくはそれ以上に老齢であった」と考察されましたが、ティラノサウルスの成長について研究した2020年の論文では彼らの骨にみられる成長に伴った特徴を詳細に調べた結果、スコッティは「これまでに発見された成体のなかでは最も若い個体の一頭」、一方のスーは「これまでに発見された個体のなかで最も老齢の個体」と考察されました。

 そんなスコッティの全身骨格レプリカはこれまでに3体が製作され、1体目はスコッティの実物化石が保管されているロイヤル・サスカチュワン博物館付属のT.rex Discovery Centreに、2体目はオーストラリアのシドニーにあるオーストラリア博物館に、3体目は北海道のむかわ町立穂別博物館に所蔵されています。
この3体目の全身骨格レプリカは【恐竜博2016】、【恐竜博2019】でも展示され、恐竜博2016ではスピノサウルスの全身骨格レプリカと対になるように展示されましたが、今回の【恐竜博2023】では他のティラノサウルスの全身骨格や頭骨のレプリカと比較観察するのもオススメします。

恐竜博2016で展示されたスコッティの全身骨格レプリカ(筆者撮影)

恐竜博2019で展示されたスコッティの全身骨格レプリカ(筆者撮影)

 

まとめ

 「最大」などのフレーズは恐竜だけではなくどんなジャンルに於いても魅力的なものです。そしてスコッティは、これまでに発見されたティラノサウルス・レックスのなかでも“暴君トカゲの王”に相応しい堂々たる体躯の持ち主ですから、展示をみにくる来館者の方々に「最大級・最重量級の肉食恐竜」の力強さを存分にみせつけてくれることでしょう!

(著:加藤ひろし)

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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