その古墳は、ほんとに「古墳時代」のものか?どうやって調べるの?

2023.03.03

先日ビックリするニュースが流れました。それは、奈良県奈良市富雄丸山古墳で東アジア最大級の蛇行剣や青銅器で造られた盾形の銅鏡が発見されたというニュースです。

うねった形の蛇行剣は鉄製で全長237 cmあります。こういった巨大な剣が作られた目的は、祭儀での道具や権力の象徴としてだと言われていますが、もしこんな剣を武器として使う人間がいたなら、古墳時代には巨人が住んでいたかも・・なんていう妄想だけは膨らみます。

また銅鏡も長さ64cm、重さ5.7kgと大きく、古墳に埋葬された故人の権力の大きさがうかがえます。

今回発掘調査された富雄丸山古墳は4世紀後半につくられた最大級の円墳だそうです。しかしここで1つの疑問が浮かびます。それは、「富雄丸山古墳がなぜ4世紀後半のものだとわかったのか」ということです。当時の日記に「何年に建てました」と書かれていたのでしょうか?

この疑問に答えるための方法をいくつか紹介したいと思います。

相対年代と絶対年代

まず遺跡の年代調査には相対年代絶対年代の2つがあります。

相対年代とは、複数の文化財を比較して古い順に並べ替える方法です。例えば、土器の特徴が下の図のように変化しているならば、この4つの土器のできた順番が決まり、遺跡の時代の順番も決まります。

(南相馬市HPより)

また、地層は一般的に深い場所にあるほど堆積した年代が古いので、遺跡の発掘時に文化財が埋まっていた地層の位置からも相対年代は推定できます。

しかしこの方法では文化財や遺跡が今から何年前にできたかわかりません。「今から何年前か」を調べるのが絶対年代です。そんなことができるのでしょうか?

絶対年代では主に自然科学の手法を用いて時代を推定します。今回は推定の方法として代表的な年輪年代法と、放射性炭素年代測定法を紹介します。

年輪年代法~樹木の「歳」で測る~

はじめに年輪年代法を紹介します。皆さんご存知の通り、樹木は1年経過するごとに成長の証として幹に年輪を刻みます。しかし年輪の幅は毎年一定ではありません。この年輪の幅はその年の気候の影響を強く受けます。そのため同時代、同地域、同種の樹木の年輪の幅は一致していると推定されます。この性質を利用することで、樹齢や建築年がわかる木の年輪の幅を基準にして、文化財に使用されている木材の年輪幅を測ることで伐採年が1年単位で分かります。

ただし、この方法では、その「木」が出土しなければ年代が分かりません。次に紹介する放射性炭素年代測定法は、そんな問題も解決してくれます。

放射性炭素年代測定法

放射性炭素年代測定法は文化財にある放射性炭素14の含有量を調査します。なぜ14Cの量を調べることで時代がわかるのでしょうか?
前回の記事(「“ピロリ菌”と”エイリアン”は同じである!?そもそもどうやって見つけるの?」)でも炭素の同位体について触れましたが、14Cは同位体の中でも更に特殊な放射性同位体[注1]とよばれる原子です。

地上では太陽から降り注ぐ放射線により14Cは常に誕生するため、14Cの数は不変です。生物では呼吸や光合成により炭素が体内と地球を循環するので、体内にある14Cは大気中の14Cの量と一致します。しかし生物が死んでしまうと炭素の循環が止まるため、体内にある14Cの量は減少(崩壊)し続けます。

この性質を利用して、14Cが生物の死骸にどのくらい残っているかを調べることで生物が死んだ年が今から何年前か突き止めます。古墳の場合は、発掘された土器に生活の中で付着した燃えカスを調べることで何年前に使われていたのかを調べることができます。

こうした手法を組み合わせることで科学的に妥当な年代を推定していきます。

理論的にはこの方法で測定は可能・・・なのですが、実は、これだけではこんなにうまく年代を特定することは不可能なんです。

なぜなら、放射性炭素14Cの濃度が時代によって変わるためです。

濃度が変わる理由はいくつかありますが、1つには地球の磁場があります。宇宙から届く放射線は地球の磁場から力を受けて曲がり地球に届きません。結果として14Cの生成量が変化します。この現象を利用して、放射性炭素14Cの濃度から地球の磁場変化を調べる研究もあるそうです。

「確実に年代がわかっているモノサシのようなものがあれば、それとの比較で特定できるのですが・・」実は、この問題を解決して、放射性炭素14Cを用いて精度よく年代を測定する基準が日本にあります。それは、福井県若狭町にある水月湖の年縞です。

歴史の”グリニッジ天文台”は日本にある

水月湖の湖底にある年縞とは縞模様状の堆積物です。この堆積物は1年に1つ年輪のような縞模様を作りながら堆積します。この縞模様を1つ1つ数えれば、この地点の堆積物が今から何年前に堆積したかがわかります。この堆積物の放射性炭素14Cを分析すれば〇〇年前の放射性炭素14Cは現在このぐらい残っている、ということがはっきり分かります。このデータを基準にすることで文化財の年代がよりはっきりと特定できます。

グリニッジ天文台はかつて世界共通の経度の基準、つまり「時刻の基準」となりました。この年縞を一言で表すと、歴史のグリニッジ天文台が日本の福井県にあるということです!

下記が、年縞博物館に保存されている「年縞」です。まさに年輪のように、縞模様を刻んでいるのが特徴です。

福井県の年縞博物館のホームページでは、綺麗な年縞ステンドグラスの写真も見ることができるのでぜひご覧ください。

「ものさし」ともう一つ必要な「分析装置」

歴史のものさし(年縞)を手に入れることはできましたが、このものさしの目盛りを読む方法はいったい何なのでしょうか?

その方法は2つあります。1つは放射性同位体14Cが壊れるときに発生するベータ線を検出する方法で、もう1つは14Cそのものを直接測定する方法です。

ベータ線を検出する方法はごくわずかにしか存在しない14Cが崩壊するのを待つため、わずかにしかない14Cよりさらに少ないベータ線を測定しなければなりません。このため、測定するにはたくさんの試料と時間が必要になります。

この問題を解決したのが質量分析器を用いた方法です。質量分析器は調べたい原子を直接調べる方法であるため、ごくわずかにしか存在しない14Cを1つ1つ数えることができます。

14Cを調べる質量分析器として加速器質量分析装置が利用されます。この装置は1Rの部屋より大きく、維持費に年間数億円かかるほど高価ですが、その性能は絶大です。

質量分析とはその名の通り原子や分子の重さを調べる装置ですが、同じ重さの分子や原子を区別することができません。この問題を解決するために、加速器質量分析装置では試料を加速器で加速させガスにぶつけます。このとき、分子は物凄いスピードでガスにぶつかり壊れます。これによって同じ重さの分子の影響がなくなります。また同じ重さの原子でも大きなエネルギーをあたえると選別が可能となるので、大きなエネルギーを与えられる加速器質量分析装置の精度は原子1個1個を数えられると評価される性能です。この高い性能は考古学の分野だけではなく生物学や医療の分野でも利用されています。

この「14C年代測定法」は文化財だけではなく、隕石の年代測定など、宇宙の分野でも活躍します。

今後皆さんが考古学に関するニュースを見るときに、「そうか、これを測るためには日本にあるものさしが必要だったんだな・・」と、この記事を思い出していただけれると幸いです。

脚注

[注1]放射性同位体 ↩︎

放射性同位体というのは、原子核が不安定で崩壊を続けて何らかの放射線を放っているような物質です。どの放射性同位体も、この放射性崩壊をしてだんだん別の元素になっていくのですが、同位体が含む原子のうち、元々の性質を持つ原子の数がちょうど半分になるまでの時間のことを半減期と呼びます。14Cの場合も、この放射性崩壊を起こして、別の物質(14N)になります。

参考文献

国内最大の円墳 富雄丸山古墳で青銅の鏡と鉄の剣見つかる 奈良 | NHK | 奈良県

その81 考古学はなぜ年代がわかるのか?(令和3年8月1日)/南相馬市公式ウェブサイト -Minamisoma City- 

日本の年輪解析研究の現状と展望 野田真人 木材学会誌 vol.52,No.5,p 271-276(2006 ) ja (jst.go.jp)

炭素14, 質量分析法, Beta Analytic (radiocarbon.com)

Accelerator mass spectrometry - Hellborg - 2008 - Mass Spectrometry Reviews - Wiley Online Library

Full article: Accelerator mass spectrometry: state of the art and perspectives (tandfonline.com)

福井県年縞博物館 公式HP (fukui.lg.jp)

 

 

【著者紹介】阿部武(あべたけし)

横浜国立大学化学生命系学科卒業。
学生時代には分析化学を専攻し、現在は分析機器関連のメーカーに勤務中。
学生時代の専攻と現職の影響から分析化学に関する記事の執筆を開始。実験結果が科学的に妥当と保証する分析化学の知識を、身近な話題とともに楽しく分かりやすく紹介できるように鋭意努力中。