低栄養を克服できる乳酸菌(2月24日 Science 掲載論文)

2023.03.07

乳酸菌の効能をうたうコマーシャルは日本中に溢れているが、利用されている乳酸菌の系統の効能を訴求するため簡単な臨床試験などが行われていると思うが、トップジャーナルに掲載されて多くの科学者の目にとまるケースはほとんどない。


本当は食品でもその訴求に見合うだけの徹底的な解析ができるはずで、例えばガン免疫を高める細菌、あるいは神経系を通して社会性に働きかける細菌など、メカニズムを解明する地道な研究が続けられており、この HP でも紹介してきた。


今日紹介するチェコ科学アカデミーとフランスリヨンのエコールノルマーレからの論文は、2016年に彼らが便中から分離した低栄養でも子供の成長を支えることが出来る乳酸菌の作用メカニズムを、マウスで解析した研究で、2月24日号 Science に掲載された。


タイトルは「Microbe-mediated intestinal NOD2 stimulation improves linear growth of undernourished infant mice(細菌叢に媒介されたNOD2刺激は幼児期のマウスの低栄養による低成長を改善する)」だ。


このグループは2016年やはり Science に乳酸菌の一種 Lactobacillus plantarum が低栄養(低脂肪低蛋白質)による発達期の体重、身長の成長遅延を大きく改善できることを明らかにしていた。この時から8年、そのメカニズムを明らかにしたのがこの研究だ。


しかし、飢餓に近い低栄養を、この乳酸菌(Lp)を摂取させるだけでほぼ正常まで、体重、身長ともに戻せることに驚く。すなわち、少ない栄養を無駄なく完全に同化できるよう代謝が調整されていることになる。


この原因を探ると、血中の IGF-1 とインシュリンレベルがいずれも高まっており、これが細胞内の Akt を活性化して代謝だけでなく、骨や筋肉の増殖成長をなんとか支えていることがわかる。


ではなぜ Lp 特異的に IGF やインシュリンの分泌を促す効果があるのか。これを調べるために、生きたLpではなく、様々な成分に分けて効果があるか調べたところ、細胞壁だけで同じ効果があることを発見する。すなわち、細胞壁に反応する仕組みが、この効果を支えていることが示された。


細菌の細胞壁は、自然免疫を刺激できることが知られている。そこで、バクテリアセンサー分子をノックアウトしたマウスで、Lp の効果を調べると、若年性サルコイドーシスやクローン病に関わる分子 NOD2 が欠損したマウスではこの効果が全く見られないことを発見する。


そして、組織特異的に NOD を欠損させたマウスを用いて、小腸での NOD2 が Lp の効果に重要で、肝臓で NOD2 を欠損させても効果は見られないことを明らかにしている。そして、NOD 刺激からインターフェロン分泌が起こることで、この効果が発揮されることも示している。


結果は以上だが、様々な新しい想像を生む研究だ。例えば、細胞壁の代わりに、NOD2 も刺激できるムラニルディペプチドを投与する実験を行い、IGF1の分泌は刺激できるが、インシュリンの分泌を刺激できないことを示しているのは面白い。


この研究は当然低栄養の子供達に朗報となるが、同じ効果を高齢者で調べることも面白い気がする。


また NOD2 の機能を理解するためにも重要だ。NOD2 は炎症を刺激するため活性型変異は若年性サルコイドーシスにつながる。ところが、逆に NOD2 機能不全はクローン病につながるという2面性を持つ。


1型インターフェロンがこの効果を媒介しているという結果は、炎症がある条件では、ストレスに対して身体を正常化させる役割を持つことを示しており、炎症を新しい目で見るきっかけになるようにも思う。


以上、特定の細菌の効果についてはせめてここまで調べて宣伝して欲しい。

 

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。