ストップコドンをアミノ酸コードとして使うためには?(1月11日 Nature オンライン掲載論文)

2023.01.28

今日の話は少し専門的すぎるかも知れないが、しかし生命にとっては最も根源的な翻訳におけるストップコドンの話だ。


生命が地球上に誕生するとき、物理法則しかないところに、物理法則とは異なるコドンとアミノ酸との関係が生まれる過程はおそらく生物学にとっての最も重要な謎で、tRNA がその鍵を握っている。


ちょっと脱線したが、私たちは64のコード表を習うが、そのうちの UAA、UAG、UGA という3つのコードはストップコドンで、ここには tRNA のかわりに RF1 or RF2 が結合して翻訳が終わる。


しかし、このストップコドンとペアできる tRNA が様々な種で存在することがわかっていた。


今日紹介するチェコ共和国科学アカデミー研究所からの論文は、全てのストップコドンに対する tRNA を持った原虫を材料に、ストップコドンがアミノ酸コードとして使われる進化の必要条件について調べた研究で、1月11日号 Nature にオンライン掲載された。


タイトルは「Short tRNA anticodon stem and mutant eRF1 allow stop codon reassignment(短いアンチコドンステムループを持つ tRNA と eRF1 変異がストップコドンをアミノ酸コードへと変換する)」だ。


この研究はチェコの昆虫から発見された原虫のゲノムを調べるうち、この原虫では GC 配列が低下していて、おそらく GC が AT へと変化するイベントが起こった結果、3種類のストップコドンに対して、UGA に対してはトリプトファン、それ以外に対してはグルタミン酸の tRNA が対応してしまったことを明らかにする。


しかし、こんなことが起こると蛋白合成は大きな変化を起こしてしまって、生物は増殖できないのではと調べていくと、この動物では UGA はトリプトファンとともに、ストップコドンとして使われること。


そして、確率論的に tRNA が結合してトリプトファンとして読まれたり、あるいはストップしたり、競争が起こること、そして合成の高い蛋白質では特にトリプトファンとして読まれる確率が高いことを明らかにする。


では、なぜこのような使い回しが起こったのか。長い話を短くしてまとめると次のようになる。


まず、ストップコドンに対応した tRNA だけが、アンチコドンの周りにあるステムループと言われる RNA のペアリングの長さが 4bp しかないことを発見する。


実際同じことが起こっている他の生物でも同じことが観察されることから、この変異が起こることでアミノ酸にも使い回しが可能になる。


ではなぜこのようなことが起こるのかと考えると、外来の侵入者の RNA も同じコドンルールを使っていることから、これから逃れるメカニズムとして発達したと考えられる。


ただ、トリプトファンの tRNA のアンチコドンループが短くなると当然翻訳もおかしくなるはずだが、この時短いループの tRNA をリボゾーム上でうまく利用するために、リボゾーム上での蛋白合成を進める役目のある eEF1 に変異が起こっていることも発見する。


この2種類の変異を酵母に導入すると、原虫と同じことを再現できることから、ループが短くなり、eEF1 の変異が起こることで、翻訳がストップコドンを超えて続く現象が確率論的に起こるようになることを明らかにしている。


結果は以上で、生命の根幹とも言えるコドンと翻訳も、一部の分子が変化するだけで、違う可能性が生まれることを示す面白い結果だ。


これからも、一種例外に見えるが生命のルールが厳守される例が多く見つかっていくと期待している。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。