合成が容易なルイス超酸「BoCb3・トリスオルトカルボラニルボラン」合成!

2022.12.23

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、新しいルイス酸「BoCb3トリス(オルト-カルボラニル)ボラン」の合成に関する報告だよ!

 

パッと見ではとても複雑な分子に見えるけど、入手が容易な原料物質を混ぜるだけでできるという、非常に簡単な合成方法で作れるよ!

 

しかもそれだけでなく、ルイス酸としての優秀な性質をいくつも持っていることから、応用が期待される物質だよ!

 

BoCb3 表紙

 

私たちの生活に欠かせない「ルイス酸」

ポリオレフィン」とは、炭素-炭素二重結合を含む有機化合物が重合した物質の総称で、ポリエチレンやポリプロピレンなどはポリオレフィンの1種だよ。

 

ポリオレフィンは密度が低く防水性が高いという特徴があるから、食品包装、ケーブルや配管の被覆、自動車のコーティングなど、挙げきれないほど多数の分野にに使われているよ。

 

この、世界で年間30兆円とも言われるポリオレフィンの製造で欠かせないのがルイス酸[注1]、特に「B(C6F5)3トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン」と呼ばれる物質だよ。

 

スゴく簡単に言うと、ルイス酸が有機化合物から電子を奪うことで反応性を高め、ポリオレフィンの基本的な構造である炭素-炭素二重結合を生み出すことができるんだよ。

 

有機化合物そのものは酸とあまり反応しないものが多いから、有機化合物から電子を奪える強力なルイス酸の存在は重要で、だからこそ工業的に重視されるよ!

 

1963年に初めて合成されたB(C6F5)3は、強力な酸でありながら熱を加えても分解されにくい性質を持ち、なおかつ合成も簡単と言う特徴があるよ。

 

ただし、B(C6F5)3にも弱点があるよ。その1つは分子にフッ素を含むことだよ。炭素とフッ素の結合は、環境中でほとんど分解されない強力な化学結合を作る特徴があるよ。

 

B(C6F5)3の製造過程では何段階かの中間反応があり、これらの中でフッ素が入り込むことから、環境に放出できず、分解にもエネルギーがいる厄介な廃棄物を生み出してしまうよ。

 

また、B(C6F5)3を超えるルイス酸は多数あるけど、それらは酸としての性能が強力すぎて有機化合物を分解してしまい、したいことができない場合も多々あるよ!

 

なので、B(C6F5)3に代わる強力なルイス酸が探られてきたものの、半世紀以上経った現在でもB(C6F5)3が使われている背景には、この探索がうまく行かないことを意味しているよ。

 

B(C6F5)3より優れた特性を持つルイス酸の合成例はあるけど、どれも簡単に作ることができないという問題を抱えていて、これが工業分野へ応用されるスケールアップを阻んできたよ。

 

この難題の背景の1つは、強力なルイス酸のカギとされる、B(C6F5)3のようなホウ素を中心とする3方向に伸びた構造での化学反応が複雑なことが挙げられるよ。

 

見た目は複雑だが合成は容易なルイス超酸「BoCb3

こんな背景事情の中で、ベイラー大学などの研究チームは、新しいルイス酸「BoCb3トリス(オルト-カルボラニル)ボランの合成を報告したよ!

 

ベイラー大学の研究室はB(C6F5)3を合成した場所であり、BoCb3の合成は、直接の流れにある大きな成果と言えるね!

 

BoCb3は溶液から単離可能な白色固体で、250℃でも分解しない安定性を持っているよ。そしてルイス酸の中でも強力な酸性を持つルイス超酸[注2]に分類されるよ。

 

どの程度強力かと言うと、炭素とフッ素の結合を切断し、別の分子に置き換える反応が実現するくらいだよ!強力な結合を考えると驚くべき性能だよ!

 

また、BoCb3を構成しているのはホウ素・炭素・水素だけで、B(C6F5)3のようにフッ素を含まず、フッ素と似たような元素であるハロゲンも含まれていないよ。

 

BoCb3 合成方法

BoCb3の合成はかなり簡単で、「カルボラン」、「n-ブチルリチウム」、「三塩化ホウ素または三臭化ホウ素」を混ぜるだけで反応が進むよ!室温でも低温でもこの反応は進み、収率も3分の1に達するよ!

 

そして何より、BoCb3の合成はかなり簡単で、BoCb3の合成に必要な直接の原料物質は「カルボラン」、「n-ブチルリチウム」、「三塩化ホウ素または三臭化ホウ素」の3つだけだよ!

 

どれもカタログですぐ注文できるくらいの一般的な原料で、これを室温から-78℃までの幅広い温度範囲で、トルエン溶液の中で混ぜるだけで反応が進むという超簡単な方法で合成ができるよ!

 

収率も良くて、三塩化ホウ素を使った場合は29%、三臭化ホウ素を使った場合は35%と、ほぼ3分の1という高効率で合成が可能だよ!

 

有用な化合物がこれほど入手しやすい原料物質と簡単な化学反応で合成できることはそうそうないことからも、この発見のすごさが分かるんだよ!

 

これからの展望は研究次第!

BoCb3 特徴

BoCb3の特徴はいくつもあり、そのどれもが優秀だよ。特に合成が簡単な点と物質として安定している点は、性能の優秀さも相まって応用の期待値が高まるよ!

 

今回合成されたBoCb3が本当に有用であるかどうかはこれからの研究と応用を見据えた実験次第だけど、それでもかなり期待値は高いと見られるよ。

 

例えば似たような構造を持ち、2004年に合成されたカルボラン酸は最強クラスの酸として名高いけど、未だに工業分野には応用されていないよ。

 

それは、カルボラン酸が相当毒性の高い物質を原料としたり、13段階の反応の数段階は不純物を徹底的に排除しなければ失敗するという、合成が相当難しい物質だからだよ。

 

一方BoCb3の性質は、既に存在するいくつかの物質のメリットを掛け持ちする一方、デメリットを排除している点から、BoCb3がそれらの物質にとって代わる可能性は十分あると考えられるよ!

 

 

文献情報

[原著論文]

  • Manjur O. Akram, John R. Tidwell, Jason L. Dutton & Caleb D. Martin. "Tris(ortho-carboranyl)borane: An Isolable, Halogen-Free, Lewis Superacid". Angewandte Chemie International Edition, 2022; 134 (46) e202212073. DOI: 10.1002/ange.202212073

[参考文献]

注釈

[注1] ルイス酸 ↩︎
1923年にギルバート・ルイスによって提唱された酸と塩基 (アルカリ) の定義に基づいた酸性物質のこと。化学反応の根幹である電子のやり取りに着目し、電子を受け取る側の物質を酸、電子を放出する側の物質を塩基と定義した。通常イメージされる酸である塩酸や硫酸はプロトン (水素イオン) のやり取りがあるが、ルイスの定義では不要なため、プロトンを含まない、あるいは放出しない物質でも酸と塩基の定義が可能となる。

[注2] 超酸 ↩︎
極度に酸性度が強い物質の総称。今回の論文では、同じくルイス超酸として知られている五フッ化アンチモンをベンチマークとして比較され、BoCb3の酸性度はそれを超えていることが示された。

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事