Bispecific 抗体を用いた骨髄腫治験(12月10日 The New England Journal of Medicine オンライン掲載論文)

2022.12.21

2つ(bispecific)、あるいは3つ(trispecific)の特異性を持つ抗体を組みあわせたキメラ抗体を使って、CAR-Tの代わりにする治療法についてはこのブログでも紹介してきた(Bispecific 抗体=https://aasj.jp/news/watch/10395 、Trispecific抗体=https://aasj.jp/news/watch/19166。


ただ、これまで紹介したのは全て動物を用いた前臨床試験だったが、今日紹介するマウントサイナイ医科大学を中心とする国際チームからの論文は、ヤンセンファーマが開発した骨髄腫に対する抗体(GPRC5D)にT細胞をガンに惹きつけるCD3抗体を合体させた bispecific 抗体を患者さんに使った治験研究で、12月10日 The New England Journal of Medicine にオンライン掲載された。


タイトルは「Talquetamab, a T-Cell–Redirecting GPRC5D Bispecific Antibody for Multiple Myeloma(T細胞を新たな標的に向けるGPRC5D bispecific抗体、Talquetmabによる多発性骨髄腫治療)」だ。


多発性骨髄腫に対しては、古くから抗体が治療に使われてきた。また、様々なメカニズムの薬剤が続々開発され、ステージが進んだ後も新しい治療を試すことが出来る。しかし、それぞれの薬剤で完治することは希なため、一種のいたちごっこが続いていた。


この状況を変えるのではと期待されているのが、形質細胞など成熟B細胞のみで発現する抗原BCMA抗体を用いたCAR-T治療で、再発例の骨髄腫で7−80%のリスポンスが見られるという素晴らしいデータが報告されている。


ただ、CAR-Tは準備に時間がかかること、及びコストの問題があった。


これに対し、CAR-Tを準備する代わりに、CD3に対する抗体を用いて、ガンの近くにT細胞を惹きつけて殺させる可能性を試したのがこの治験で、BCMAの代わりに、骨髄腫で高い発現がある GPRC5D分子を標的にしている。


第1/2相の治験で、無作為化したりコントロールを置いた研究ではない。最初は投与量をエスカレートさせたり、投与方法を変化させたりと複雑なプロトコルになっているので、個々では最終投与法として、週一回405μg/Kg皮下注射、隔週800μg/kg皮下注射の治験のみを拾い上げて紹介する。


まず副作用だが、抗原に対する急速な反応が起こるためのサイトカインストーム、及びGPRC5Dを発現する爪の異常や抜け毛などは、ほとんどの患者さんで見られる。


ただ、薬をやめることで改善し、多くの患者さんでは治療を再開している。


さて効果だが、405μg/kg 毎週では、7割の患者さんで改善が見られ、そのうち57%でcomplete response、800μg/kg 隔週で64%で改善、52%でcomplete responseという結果だ。


さらに長期生存結果などの評価には時間がかかるが、CAR-Tと比べても遜色ない結果として報告に至っていると思う。


個人的印象だが、bispecific抗体がCAR-Tとほぼ同じ効果を示したことは、かなり大きなインパクトがある。すなわち、同じ薬剤を全ての患者さんに使えることで、コストを下げ、治療開始期間を短縮できる。


おそらく今後、多くのbispecific抗体や、さらに改良型のtrispecific抗体治療が進むと思われる。


その上で、CAR-Tが消えていくのか、あるいは代換え不能の治療方法として続くのか、注視していきたい。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。