「ワームホール」はブラックホールと見た目がそっくり!でも区別可能かもと判明?

2022.12.02

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回の解説は、ワームホールとブラックホールを外から見て区別可能か?という疑問に対する答えだよ!

ワームホールの外側の見た目はブラックホールとそっくりなはずで、仮にあったとしても区別できるかどうかは分からなかったよ。

今回、その違いはわずかで区別は困難だけど、観測により明らかになるレベルでの違いがあるかもしれないという結果が出されたよ!

そもそもワームホールってなんだっけ?

SF作品に触れているなら、「ワームホール」という言葉はよく聞いたことがあるんじゃないかな?これは元々、理論物理学的に予測された "虫食い穴" だよ。

ワームホールのアイデアは、元々は電磁力学の中で数学的に仮定された後、一般相対性理論の理解が進んだ1936年に時空の解として算出された産物だよ。

これは元を正せば、一般相対性理論にあるアインシュタイン方程式を解いた答えの1つとして「ブラックホール」が現れた、という部分が発端となっているよ。

物理学は基本的に、時間を反転させても同じ内容が成り立つ「時間反転対称性[注1]があるよ。これを元に考えれば、ブラックホールの正反対のバージョンである「ホワイトホール[注2]が出現するよ。

ここでワームホールは、ブラックホールのホワイトホールを単純に繋げたものとして最初に仮定され、その後いくつかの異なるバージョンが理論的に提唱されたよ。

ワームホールとブラックホールの方程式

ワームホールとブラックホールは、方程式の上ではかなり似ていて、2つの穴を繋ぐトンネルが存在するかしないかの違いしかないよ。なので外から見た場合、ワームホールとブラックホールは極めてそっくりなはずで、区別ができるかどうかが極めて怪しいよ。 (画像引用元: Physics)

ワームホールがSFでよく使われるのは、異なる時空を繋ぐショートカットとなり、光速の制限を超えずに遠くへとワープする方法としてよく使われるからだよ。

ただ、ワームホールはいまだに理論上、紙の上の存在でしかないよ。実物は発見されておらず、ワームホールにも思えるようなものもいまだに発見されていないよ。

それでも、同じく理論上の存在でしかなかったブラックホール[注3]が、今では存在しなければおかしいというくらいにまで観測証拠が高められた通り、ワームホールもまた発見待ちである可能性はあるよ。

ワームホールはどう見える?

では、実際にワームホールがあったとして、それは他の天体と区別できるのかな?ソフィア大学などの研究チームは、ワームホールの見え方について研究したよ。

話を簡単にするために、ワームホールは静的 (自転や運動をしない) で通過可能であり、周りに放射源となる降着円盤[注4]を持つと仮定したよ。

これは、ワームホールの入り口がブラックホールと共通する性質を多く持つことに由来していて、実際のところはブラックホールとの区別が可能かどうかの研究ということになるよ。

ただし、ワームホールは別の時空へと繋がる通過可能な穴なのに対し、ブラックホールは入ったらそこでおしまいという行き止まりなので、時空の形状が異なるはずだよ。

この時空の形状の違いが、降着円盤から放出される放射の偏光[注5]に影響を及ぼす可能性があるよ。そのような違いがあるのか、あるとしたらその度合いについて検証したよ。

その結果、ワームホールとブラックホールの偏光の違いは非常にわずかで、強度や偏光度の違いは4%未満であることが示されたよ。これでは観測で区別するのが極めて困難だよ。

ただし、ここに重力レンズ効果が重なると話が別だよ。重力レンズ効果とは、ワームホールと観測者 (=地球) の間に、別の天体が入り込むことによって起きる現象だよ。

一般相対性理論では、重力は時空のゆがみであり、光は時空のゆがみに沿ってしか運動できないから、時空が歪んでいる、つまり重力があると光の進路は曲がってしまうよ。

もし天体の位置がちょうどいい具合にあると、曲げた光が観測者のところで焦点を作り、見た目の光の強度が上がるよ。これがあたかも凸レンズのようだから、重力レンズ効果と呼ぶよ。

ワームホールの偏光度

ワームホールの降着円盤から放出される光の偏光度は、ブラックホール自身から放出されるものとは違いがあることが今回分かったよ。その違いはわずかなもので、直接観測 (左側) での区別はかなり難しいけど、重力レンズ効果を通してみた場合 (右側) には区別が可能になる可能性があるよ! (画像引用元: 原著論文のarXivより)

今回の研究では、重力レンズ効果を通してみたワームホールからの放射は、わずかな偏光の違いを拡大し、最大で1桁程度 (10倍程度) の変化をもたらすとしたよ!

また、ブラックホールを直接見た時、光が絶対に届かない "影" (ブラックホールシャドウ) が存在するけれども、この大きさもワームホールとは異なることが分かったよ。

そして、この "影"  の大きさについても、重力レンズ効果で拡大されることでさらに区別されやすくなる可能性があることから、これでもワームホールとの区別が可能になるかもしれないよ!

また、ワームホールを通って向こう側から来た光が存在する場合、その偏光強度はかなり強いため、重力レンズ効果がなくても区別可能かもしれないことも合わせて示されたよ!

ワームホール、それでも発見は難しい

ここまで書いてみると、なんだワームホールは案外簡単に発見できそうじゃないか、と思うかもしれないけど、残念ながらそう簡単じゃないから今まで未発見であるという事情があるよ。

まず、偏光というのは精密な観測が極めて難しいもので、不可能とまでは言わないけれども、多くの望遠鏡による詳細な観測でもかなり難易度の高い課題だよ。

また、偏光度を変える要素は時空以外にもあり、ワームホールやブラックホールと観測者との間にある物質を通過することで偏光度が変わる可能性はいくらでもあるよ。

次に、今回の理論では静的なワームホールを仮定しているけれども、現実のワームホールやブラックホールはほぼ間違いなく自転をしているから、これは現実に即していないよ。

最も、ブラックホールも最初は静的なものから始まり、次に自転をしているブラックホールが仮定された歴史があるから、今回の理論を修正できる可能性は大いにあるよ。

ただ、自転をしてるブラックホールが理論的には極めて難解なように、自転をしているワームホールから放出される偏光を知ることは極めて困難だと思うから、すぐにできるとは言えないよ。

そして理論の修正の結果がどう転ぶのかは修正を待たないといけないよ。もしかしたら区別が困難な方に転ぶかもしれないし、それは誰にもわからないよ。

例えば、今回計算で出された偏光は、史上初めて画像化されたブラックホールである「M87*」のデータと部分的に一致するけど、これはM87*がワームホールであることを意味しないよ。

M87*は明らかに自転をしているし、何よりも偏光に関するデータの不確かさから、ワームホールだと主張するにはかなり弱いという問題があるよ。

そして、重力レンズ効果の発生や、ワームホールから通ってきた光を観測できる可能性は、極めて狭い角度の範囲に観測者=地球が配置されていないといけないから、これは完全に運の問題だよ。

ワームホールが仮に存在し、今回の理論通りに区別が可能だとしても、これらの問題が山積しているから、すぐに見つかる可能性はかなり低いと思うんだよ。

ただ、理論的に区別可能と示すことができたのは大きな成果であり、もしかするともっと簡単な区別の方法が眠っているかもしれないから、更なる研究が望まれるよ。

そもそも論として、現状の理論ではワームホールは極めて不安定な存在[注6]であり、一瞬のうちに潰れてしまうから、観測上は存在しないものとして扱われているよ。

ワームホールが見つかった場合はもちろん、仮に見つからなかったとしても、それは現状の物理学のパラメーターに制約を課すことにつながるから、全くの無駄にはならないんだよ!

 

脚注

[注1] 時間反転対称性 ↩︎
放物線上に投げた物体の映像を逆再生しても区別がつかないように、本来物理現象は時間をどっちに流しても同じになるという対称性を有すると言われる。これが時間反転対称性である。少なくともミクロスケールでは、一部の例外を除くと時間反転対称性が成立していることが明らかにされており、ワームホールにはその一部の例外は適用されないため、理論的には時間反転対称性は前提として使われる。しかし、ガラスのコップが割れる映像を逆再生すると違和感があるように、マクロスケールでは時間反転対称性は成り立っておらず、時間は一方向に流れているように見える。なぜマクロスケールでは時間が一方向に流れているのか、あるいは時間が一方向に流れているのは何らかの理由による "気のせい" なのか、と言う点は、物理学における最大の謎の1つである。

[注2]ホワイトホール ↩︎
ブラックホールとホワイトホールは、この境界を境に光の速度ですら逆走が不可能になるという事象の地平面という境界面に囲まれている点では同じである。ブラックホールは事象の地平面を超えた内側では光でも逆走できないので脱出不可能になるのに対し、ホワイトホールは事象の地平面を超えた内側から脱出するしかなく、逆走して事象の地平面より先に入り込むことが不可能な天体である。これは先述の時間反転対称性により、ブラックホールとホワイトホールは時間のパラメーターが単に反対になっただけの存在だからである。そして本来、ブラックホールの存在を許すならばホワイトホールの存在も同時に許される。しかし、重力崩壊によって生み出されるブラックホールと違い、ホワイトホールは生成方法が不明であり、実際の宇宙には存在しないと見られている。また、仮にホワイトホールが存在しても観測不可能だという説もある。ホワイトホールは通常の重力が存在するため、ホワイトホールから放出された物質は重力に引き寄せられ、事象の地平面に降り積もる。やがて物質は臨界点を迎えて重力崩壊しブラックホールになるため、外側がブラックホール、内側がホワイトホールという二重構造となり、外から見ればブラックホールと区別がつかないはずである。

[注3] 理論上の存在でしかなかったブラックホール ↩︎
ブラックホールの性質は極めて奇妙である (光ですら逆走できなくなる事象の地平面や、密度やエネルギーが無限大になり相対性理論が破綻する特異点の存在など) 。このため当初、ブラックホールは純粋な数学的産物であり、実際の宇宙には存在しないと見られていた。しかし1971年に発見されたはくちょう座X-1を皮切りに、ブラックホールでないと説明がつかない天文現象が次々と発見され、現在ではブラックホールの存在にはほぼ疑問符は存在しない。

[注4] 降着円盤 ↩︎
何らかの重力的中心の周りに、塵やガスなどの物質が公転している、物質が寄り集まった円盤のこと。ブラックホールのような天体は、重力の強さに対して直径が小さすぎるため、物質は一気に吸い込まれず渋滞する。すると周りで円盤を構成し、それらが相互作用することで超高温を発し、X線などの放射をする。ブラックホール自身は全く放射しないものの、降着円盤からの放射で間接的に発見が可能となる。

[注5] 偏光 ↩︎
光は波の1つであり、波は何らかの振動面を持つ。この振動面が特定の角度に傾いている状態を偏光と呼ぶ。

[注6] ワームホールは極めて不安定な存在 ↩︎
理論的にワームホールのトンネルは極めて不安定であり、素粒子1個でも入り込むとたちどころに潰れてしまうため、ワームホールができてもそれは一瞬でしかなく、たちどころに2個のブラックホールとなってしまい、観測不可能だろうと言われている。このため今回の理論が正しくても、ワームホール自体が存在せず、観測的に見つけるのは不可能かもしれない。一方で、ワームホールを安定化させる方法もなくはないため、極めて可能性は低いながらも、観測できるかもしれない。

文献情報

[原著論文]

  • Valentin Deliyski, Galin Gyulchev, Petya Nedkova & Stoytcho Yazadjiev. "Polarized image of equatorial emission in horizonless spacetimes: Traversable wormholes". Physical Review D, 2022; 106 (10) 104024. DOI: 10.1103/PhysRevD.106.104024

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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