日本海側は珍しい?島根県で初めて記録されたウシマンボウ

2022.12.07

 ウシマンボウはマンボウとよく間違えられる。これはウシマンボウの漁獲頻度がマンボウよりも低いことや、マンボウ型の形態をした魚類はマンボウ1種しかいないという漠然としたイメージが一般の人々の間で根付いているからだ。私も子供の頃はマンボウ類は1種だと思っていた。しかし、いざ研究を始めてみると、クサビフグやヤリマンボウがいることがわかった。そして、自分がマンボウ科の分類学的な研究に携わることによって、世界にはウシマンボウやカクレマンボウもいることが分かった。

 2010年にウシマンボウの標準和名を提唱してから早12年。私は日本周辺に出現するこの魚をずっと追い掛けてきた。未報告の都道府県でウシマンボウの出現情報が確認されると、可能な限り早く論文として出版してきた。これは論文を定期的に出版することにより、ウシマンボウの認知度を上げ、多くの人にこの魚のことを知ってもらいたいという私の願いに他ならない。未だにマンボウと混同されることも多いが、少しずつウシマンボウの認知度が上がってきていることを実感している。

 太平洋側ではウシマンボウは沖縄から北海道まで幅広く分布していることがわかってきた。しかし、日本海側は太平洋側よりもウシマンボウの出現情報が少なく、生態は謎に包まれている。今回、新たな出現記録として、島根県でウシマンボウが確認されたので、ここでその紹介をしよう。

ウシマンボウは日本海側では珍しい?

 私が博士課程でマンボウ類を研究していた当初、ウシマンボウは太平洋側でしか見つからないので、日本海側にはいないものと思っていた。しかし、石川県の定置網でそれっぽい魚が漁獲されたという連絡が研究者から来て、写真を見せてもらうとどう見てもウシマンボウだったので、日本海側にもいるのか!と衝撃を受けたことを今でも覚えている。それが今から10年前。2012年2月9日、石川県の能登町沖で漁獲された日本海初記録のウシマンボウであった。

 あれから10年、学術的には、日本海側では合計でたったの5個体しかウシマンボウは報告されていない。おそらく実際は、毎年ウシマンボウは漁獲され、食べられたりしているのだと思うが、マンボウと混同されたりして、漁獲現場でもこの魚の存在はあまり気にされていないのではないかと思っている。

 これまでの日本海側でのウシマンボウの記録を振り返ってみると、2例目は富山県魚津市沖の定置網で2017 年1月16日に漁獲された。富山県の個体は確か……私がネットサーフィンしていたところ、魚津水族館のブログかホームページにウシマンボウが載っていて、急いで連絡を取って共同研究として論文化した。この時点で初記録から既に5年が経っている。

 3例目は海響館からウシマンボウっぽいのが定置網で漁獲されたと連絡が来て、共同研究で論文化した。2018年1月27日、山口県長門市沖で漁獲されたウシマンボウで、現在でも日本最少(全長120.2 cm)かつ唯一の雄個体である。

 4例目は2019年10月22日に長崎県の有福島沖(日本海というよりは東シナ海の方が近いかもしれない)の定置網で漁獲されたウシマンボウで、全長194.5cmとそれなりに大きいのに典型的なウシマンボウの形態的特徴である頭部と下顎下の隆起がない変わった個体であった。この個体は私以外でマンボウも研究している長崎大学の中村博士と共同研究として論文化した。

 5例目は2021年11月19日に福井県小浜市沖の定置網で漁獲されたウシマンボウで、ニュースで漁獲されたことを知り、新聞社に問い合わせて論文化した。このように長い時間を掛けて、地道に日本海側でのウシマンボウの出現情報を集積しているのだ。

そして6例目へ…

 過去5例のウシマンボウの記録について、気付いた方がいるかもしれないが、漁獲方法はすべて定置網だ。ウシマンボウの漁獲には定置網が適切であることが示唆されるように、日本海6例目となる今回のウシマンボウもまた定置網で漁獲された。今回のウシマンボウは、知人からインスタ上に大きな個体が漁獲された動画が上がっているよと教えてもらい、知人がインスタに上げた漁師の方と知り合いだったので繋げてもらって、詳細な情報を得ることができた。

 研究に協力してくれたのは御津大敷網組合の小笹さんだ。漁師の方が研究に協力してくれると、現場の詳細な情報が得られるので非常にありがたい。今回のウシマンボウは、島根県の島根町沖で2022年11月22日に漁獲された。ちょうど世間ではいい夫婦の日などで盛り上がっていた時である。

 ・・・お分かり頂けるだろうかこの大きさ。船が狭く感じるほど大き過ぎて全身がケータイで撮影できていない。漁港に持ち帰っていたらニュースになっていた可能性は高い。臀鰭や背鰭の幅から考えても全長2m以上は確実に超えている。漁獲時はまだ生きており、あまり食べない地域だったので、このウシマンボウはその後、海に返された。船に揚げられていることを考えると、体へのダメージは大きそうだが、願わくば元気に生き残って欲しいと思う。

 簡易だが動画のスクショを繋げてみると、ウシマンボウの特徴である隆起した頭、波打たない舵鰭が確認できる。島根県初記録のウシマンボウもこれまで日本海側で記録されている富山県~長崎県の範囲に入った。

 しかし、日本海側は未記録地域が多い。これまでの傾向だと日本海側のウシマンボウは10月~2月と秋・冬に漁獲されている。これから本格的な冬が到来するので、また巨大なウシマンボウが漁獲される可能性は十分にある。

 読者の方で未記録地域からウシマンボウの出現を確認した場合は、是非私のTwitterに連絡してくれると嬉しい。


 日本海
  情報少ない
   ウシマンボウ
    島根県初
     やはり秋冬

参考文献

石川県水産総合センター.2012.ウシマンボウ?来遊.石川県漁海況情報,229: 1.

澤井悦郎・山野上祐介・木村知晴・稲村 修.2017.日本海から2例目(富山県初記録)のウシマンボウ.魚類学雑誌,64: 191–193.

Sawai, E, Y. Yamanoue, T. Sonoyama, K. Ogimoto and M. Nyegaard. 2018. A new record of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Tetraodontiformes: Molidae) from Yamaguchi Prefecture, western Honshu, Japan. Biogeography, 20: 51–54.

Sawai, E. and I. Nakamura. 2020. New locality record of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Tetraodontiformes: Molidae) from Nagasaki Prefecture, western Japan. Biogeography, 22: 65-67.

澤井悦郎.2021c.写真に基づく福井県初記録のウシマンボウ.Nature of Kagoshima, 48: 119-122.

澤井悦郎.2022.写真に基づく島根県初記録のウシマンボウ.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 27: 1-3.