航空機産業の安全性を高める研究!チタン合金滞留疲労の原因を探る

2022.11.18

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回の解説は、チタン合金がなぜ滞留疲労を起こすのか、その根本を探る研究についてだよ。

チタン合金はその軽さや丈夫さから、特に航空機産業で多用されているから、その信頼性はとても重要な関心事だよ。

今回は、とある航空事故をきっかけに調査が進められた、チタン合金の低温での破壊現象について、その根本的な理由を探った研究だよ。

航空機産業で多用されるチタン合金

チタンをベースとする合金は、その硬さやサビにくさ、鉄より軽いことや見た目の綺麗さから、日常生活でも時々見かけるものではあるけど、最も重要な分野は航空機産業だよ。

生活に欠かせないジェット機のエンジンは、1000℃を超える高温と猛烈な力や振動に晒される過酷な環境だから、エンジンに使われる部品はそれに耐えないといけないよ。

特に負荷のかかるファンディスクには、ジェットエンジンが開発されたころからチタン合金が使われてきたんだけど、それでもこれは改良を重ねた歴史があるよ。

特に「Ti-6Al-4V」と呼ばれるチタン合金は、改良を重ねた集大成的なもので、航空機産業に使われる合金の50%を占めると言われているくらい非常に重要なものだよ!

Ti-6Al-4Vの名前は、メインであるチタンに6%のアルミニウムと4%のバナジウムを含むことを示していて、1950年代に開発されてから半世紀以上使われているよ。

チタン合金の信頼が揺らぐ事故が発生

ところが、そんな重要なチタン合金であるTi-6Al-4Vの信頼性を疑わせるような事故が、2017年9月30日にエールフランス66便で起きてしまったよ。

パリのシャルル・ド・ゴール空港を発ってロサンゼルス国際空港に向かっていたエールフランス66便は、グリーンランド上空で第4エンジンが突如爆発する事態に見舞われたよ。

幸い、カナダのグースベイ空港に緊急着陸し、乗客乗員521人や地上に被害はなかったけれど、原因調査の中で非常に気になる原因が指摘されたよ。

事故機のエアバス A380-861に搭載されていたロールス・ロイス トレント970は、爆発後地上に落下したのを何とか探し出したことで、詳しい原因調査が行えるようになったよ。

エールフランス66便事故はファンハブが滞留疲労の末に破断したことが原因

エールフランス66便で起きたエンジンの爆発事故は、チタン合金Ti-6Al-4Vが滞留疲労の末に破断したことが原因だと特定されたよ。Ti-6Al-4Vは航空機産業で多用されていることと、Ti-6Al-4Vが滞留疲労を起こすとは考えられていなかったから、これはかなり問題視されたよ。 (画像引用元: フランス航空事故調査局)

すると、直接の原因はファンハブの破損によるもので、ファンハブが割れ、遠心力で破片がすっ飛んだことで、エンジンの周りを切り裂いたことが事故原因だったよ。

問題だったのは、ファンハブは製造から間もなく、点検も十分に行われていたにも関わらず、想定される寿命の4分の1でTi-6Al-4Vできた部品の深刻な破損が起きたことだよ。

更なる原因調査で、これは「滞留疲労[注1]によるものと分かって、大きな問題となったんだよ。と言うのは、事故以前はTi-6Al-4Vでは滞留疲労が起きないと思われていたからだよ。

滞留疲労は金属疲労の1種だよ[注2]。強い力をかければいくらチタン言えども変形するけど、変形するよりずっと弱い力であっても、何回もかけ続ければひび割れが発生する可能性があるよ。

滞留疲労を起こすかどうかは合金の性質によってまちまちで、Ti-6Al-4Vは実質的に発生しないと見られていたからこそ、実際に事故が起きて初めて定説が覆されたというわけだよ。

滞留疲労は、エンジン回転数が上がることで負荷がかかる一方、温度が決して高いとは言えない離陸時でも発生するから、Ti-6Al-4Vで滞留疲労が発生するとなれば非常に問題だよ。

また、エールフランス66便の事故の場合、通常の点検では見過ごされてしまう、肉眼では見えないほど小さな亀裂が原因であることもわかり、その点も問題になったよ。

つまり、チタン合金の性質を徹底的に調べないと、エールフランス66便のような事故が再発する可能性はあるし、次も運良く全員が助かるとは限らないから、大きな問題となったよ[注3]

合金の性質をミクロで探るのは難しい

ただし、金属の性質を調べることは一般的に難しく、特に複数の元素が混ざり合っている合金の性質を調べるというのは、最先端の研究施設でも極めて難しいことだよ。

合金の性質を決めるのは、どの種類の元素がどのくらいの割合で混ざり合っていて、更に原子がどのように結びついているのか、結晶構造がどうなっているのかも極めて重要だよ。

加えて、合金には全体の平均的な組成とは異なる原子の組み合わせとなっている欠陥の発生をゼロにすることはできないし、酸素のような不純物も完璧にゼロにすることはできないよ。

これらの欠陥は原子レベルで、まさに点と言えるけど、点と点が重なれば線になるように、欠陥同士を結び付ける微細なひびが入れば、それが繋がって大きな割れに繋がる恐れがあるよ。

ただ、これらの欠陥がどのくらいの数や位置で発生し、どれが致命的な損傷に繋がるのか、を解析するのは極めて難しくて、だからこそ実際に事故が起こるまで見過ごされてきたとも言えるんだよ。

ミクロスケールで強力に解析!

ローレンス・リバモア国立研究所は、この種の詳細な研究が行える数少ない施設の1つだよ。高エネルギー X 線回折顕微鏡法を使うことで、合金の詳細な研究を行えるよ。

今回はTi-6Al-4Vではなく、チタンに7%のアルミニウムを含ませた「Ti-7Al」をベースに研究を行ったよ。なぜそのものではないかと言うと、これまでの研究によるものだよ。

それは、Ti-6Al-4Vのようなチタン合金で構造破壊が起こる時、局所的に発生するTi3Al (チタンとアルミニウムが3:1) という組み合わせが悪さをするらしい、と分かった点だよ。

Ti3Alは結晶構造的に滞留疲労を起こしやすいと分かっていて、これが点で発生するならまだしも、線で繋がるような場合だと深刻なひび割れに発展する恐れがあるよ。

ただ、これは普通の顕微鏡で観察できる程度のマクロスケールの話で、それより小さなスケールでは、どうしてそのような脆さを示すのかはよくわかっていなかったよ。

そしてもう1つは、チタン合金に含まれる酸素の関与だよ。これは不純物として一般的に含まれていて、なるべく除去はされるものの、完全にゼロにすることはできないよ。

チタン合金に含まれる酸素は、0.25%以上含まれると合金の硬さや疲労耐性に悪影響を及ぼすことが分かっているけど、それより少ない酸素の影響は未知数だったよ。

だから、バナジウムを含まずチタンとアルミニウムだけでできたTi-7Alをテスト材料にしたわけ。研究では更に、酸素を0.05%および0.25%含ませた場合を調べてみたよ。

チタン合金がひび割れる3つの条件

その結果、3つのことが分かったよ。まず1つ目として、予想通り局所的に発生するTi3Alが、合金の中ですべり面を発生させ、この部分で合金が割れやすくなることが分かったよ。

2つ目として、合金を急冷して結晶度が低いものと比べ、合金をゆっくり冷やして結晶度を高くしたものでは、Ti3Alの分布が異なることが分かったよ。

Ti3Alが並んでいる部分が長ければ長いほど、すべり面が大きくなり、それだけ大きな日々が発生しやすくなるから、これはとても重要な視点だよ。

急冷して結晶度が低いものは、Ti3Alがごく短距離でしか並んでいないから、微細なすべり面がバラバラに分布しているだけで、それ以上大きなひびにはなりにくいよ。

一方でゆっくり冷やして結晶度が高いものは、Ti3Alが長い距離で並びやすいから、それだけ大きなすべり面が発生しやすくなり、より大きなひびに発展する可能性があるよ。

3つ目は酸素の関与だよ。酸素濃度が高いと、すべり面とそうではない部分がはっきりと分かれていて、すべり面同士が帯状に繋がりやすくなるよ。これは発展する可能性があるから危険だよ。

ただし、酸素濃度の高さによるすべり面の発達は、結晶度の高さによるすべり面の発達とは質的に異なると推定されているよ。これは観察で分かるよ。

酸素濃度の高さに起因するすべり面の発達は、局所的な酸素濃度の高い部分がより脆いことにより、脆い部分同士のすべり面が繋がって帯状に発達する、と考えられているよ。

この推定は、酸素濃度を高くし、結晶構造が秩序だっている合金でより顕著になるよ。すべり面の発達は非常に直線的となり、とても割れやすくなっているよ。

これは、すべり面の元となるTi3Alが細かく分散し、平均的に分布することで、どの方向に最初のすべり面が発生しても、その後が繋がって発展しやすい、というのが理由だよ。

チタン合金の破断条件

チタン・アルミニウム合金で実験を行ったところ、脆い成分の部分ですべり面が発生することが分かったよ。すべり面1つ1つは微細だけど、それが帯状に分布すればするほど、より大きなひび割れとして危険度が増すことが分かったよ。 (画像引用元: 原著論文)

今回の詳細な分析で分かったのは、今まで知られていたことの微細な研究と、酸素の関与が意外な方向性に働いているという点だよ。

チタン合金内で脆い部分がすべり面を発達させ、これが深刻な割れに発展する可能性があるよ。そしてこの一番根本的な原因は、合金の鋳造時に起こる条件が引き起こすことが分かったよ。

一方で、結晶度の低さや、比較的低濃度で含まれる酸素は、このすべり面の発達を阻害することで、より深刻な割れへと発展するのを防げると考えられるよ。

これらの知見は、多用されているチタン合金の安全性を高めるための、新しい製造方法や検査方法を確立する基礎的なデータとなるはずだよ!

脚注

[注1] 滞留疲労 ↩︎
英語では "Cold dwell fatigue" と呼ぶように、低温 (数百度ではないという意味) や室温でも発生することから、「室温滞留疲労」とも呼ばれる。

[注2] 滞留疲労は金属疲労の1種 ↩︎
より厳密に言えば、滞留疲労は降伏応力 (変形して元の形へと戻らなくなる強さの力) より弱い力を長期間繰り返し与えることで起こる金属疲労のことを指す。チタン合金の場合、降伏応力の60%以下とされている。

[注3] エールフランス66便のような事故が再発する可能性はある ↩︎
1989年7月19日、ユナイテッド航空232便 (マクドネル・ダグラスDC-10-10) の尾翼にある第2エンジンが爆発、部品が油圧系統を切り裂き、全油圧が効かなくなるなる事故が発生した。緊急着陸を試みるも直前で姿勢を崩して大破炎上、乗客乗員296人中112人が死亡したものの、状況的には緊急着陸を試みることすらできずに墜落、全員死亡した可能性もあるほどの重大な損傷であり、半数以上が助かったのは奇跡的とすら言える事故であった。この事故では、ファンディスクの破損が事故原因であり、これは製造時に不純物として含まれた窒素による微細な欠陥により、19年後に破綻に至ったことが判明した。欠陥のある製造方法は皮肉にも、このファンディスク製造の1年後には変更・改善されている。航空事故は確率自体は低いものの、一度発生した場合の致死率や死者数が他の乗り物と比べて桁違いに高いことを特徴としているため、部品の物質的欠陥があるならば徹底的に研究されるのが常である。

文献情報

[原著論文]

  • Felicity F. Worsnop, et.al. "The influence of alloying on slip intermittency and the implications for dwell fatigue in titanium". Nature Communications, 13, 5949. DOI: 10.1038/s41467-022-33437-z

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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