フサフサヒレナガチョウチンアンコウが日本一長い日本産魚類の名前を更新! 魚の標準和名の文字数をいろいろ調べてみた!

2022.11.24

 深海魚クラスタに朗報だ! 日本産魚類に新しい深海魚(ここでは水深200m以深で見付かった魚類の総称とする)が加わった。その名も「フサフサヒレナガチョウチンアンコウ Caulophryne polynema 」! 要注意なのが本種は既に学名が付けられているので新種ではない。本種は今まで海外の魚と考えられていたが、2020年に岩手県沖の水深約660mから採集された「日本初記録」の魚だ。情報の価値が全く異なるので、新種と日本初記録種を混同してはならない。

 最近、日本初記録種であるモトスマリモ Aegagropilopsis clavuligera が国立科学博物館からプレスリリースされたが、「日本新産種」と紹介されていたために、勘違いしたいくつかのメディアが「新種のマリモ」としてニュースを流し、新種に敏感なtwitterユーザーの間で「新種という表現は間違っているのではないか?」と話題になっていた(ここまでは説明のために標準和名と学名を併記したが、以降は学名を記さない)。モトスマリモも既に学名が付けられている。ちなみに魚類学で一般的に使う「日本初記録種」という表現は、植物学や菌類学では一般的に「日本新産種」と表現するようで(私も今回調べて初めて知った)、どちらも「海外で既に記載されている(学名が付けられている)がその後日本で初めて確認された種」を意味する。うーむ、専門用語はその業界にいないと分からないところもあるので、メディアに誤解釈されないように伝えないといけないなと改めて感じた事例だった。

フサフサヒレナガチョウチンアンコウってどんな魚?

 三澤ら(2022)によると、ヒレナガチョウチンアンコウ科のフサフサヒレナガチョウチンアンコウは日本初記録種で、現時点では岩手県沖からしか見付かっていない。海外でも水深585m以深からしか採集されていないようだ。今回採集された個体は標準体長14.2cmの雌であるが、腹部には全長1.06cmの雄も付着・癒合していた。残念ながら論文はまだフリーアクセスになっていないので、アクセス権を持つ人しか見ることはできないが、本種の別個体の標本写真はTwitterで公開している研究者がいたので、そちらで見ることができる(写真の個体の同定が間違っていなければ)。リンク先を見るのも面倒臭い人のために、私も簡単なイラストを描いてみた。雰囲気はわかると思うが実物とは大きく異なる可能性があるので要注意である。本種は誘引突起(頭から突き出ている部分)が多数の半透明な糸状皮弁に覆われていることから、フサフサヒレナガチョウチンアンコウと新標準和名が提唱された。論文では「フサフサ」の意味については特に触れられていないが、多数の半透明な糸状皮弁がふさふさしているように見えることを言いたいのだろうと察することができる。

名前の長さが気になる

 しかしながらこの名前を見た方は、フサフサヒレナガチョウチンアンコウの名前の長さが気になったのではないだろうか? 私は気になった。三澤ら(2022)が収録されている魚類学雑誌69巻2号の編集長も気になったようで、編集後記に「ふと名前の長さが気になりカウントしたところ,日本産魚類で最長とされていたミツクリエナガチョウチンアンコウ(16文字)を1文字超えた17文字となっていました.」とコメントしている。つまりフサフサヒレナガチョウチンアンコウは、日本に生息している魚類において命名された標準和名(ここでは研究など学術的に使われている和名とする)の中で、現在一番文字数が長いということになる。このような通常よりも長いと感じる一単語は長大語と言うらしい。東大王とかクイズ番組のネタになりそうだ。

 ここで私は、他にどんな標準和名の長さの日本産魚類がいるのか?ということが気になった。しかし、これを調べるには魚図鑑などに載っている日本産魚類の情報を片っ端から集めなければならない……これはかなり労力がかかりそうだ……が、幸運にも、現在は鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之先生の研究チームが、日本産魚類の全種リストを作成し、日々アップデートしている。本記事では2022年11月21日に更新された本村(2022)の最新版(ver. 18)を使用し、このリストにある標準和名の長さと種数(※亜種も含む)を調査した。今回の調査にあたって、本村(2022)のリストを使用する上で本記事独自の条件を設けた。

  • このリストにある種の和名は外来種(例:ブルーギル)も含めてすべて標準和名として扱う。
  • 「“アリゲーターガー”」など外国語の日本語読みの名前も採用した。
  • 「和名なし」と書かれている種、「トミヨ属雄物型」や「サルハゼ属の一種A」などの明確な標準和名が与えられていない種は本調査では除いた。
  • 「ナガサキツノザメ?」などは「?」を除いて、名前の部分だけをカウントした。
  • 「スナヤツメ北方種」、「ヤマトシマドジョウA型」、「太平洋系陸封型イトヨ」などの地域集団などは標準和名が提唱されている1種を採用し、名前の部分だけをカウントした(例:スナヤツメ、ヤマトシマドジョウ、イトヨ)。
  • 「オオメジロザメ(ウシザメ)」と併記されている名前は主な方を採用した。
  • 「サツキマス・アマゴ」と同等に用いられ併記されている場合は、文字数の多い方を採用した。
  • 「ョ」などの小書き文字や横棒「ー」は1文字としてカウントした。

 本村(2022)のリストには和名なしの種、外来種、分類学的再検討が必要な種なども含めて全4723種が日本に生息している魚類としてリストされていたが、本条件の下では、このうち4647種を標準和名を固有に持つ種(亜種含む)として採用した。日本産魚類4647種について、標準和名の文字数別に種数を分けると以下の棒グラフになった。

 最も種数が多かった標準和名の文字数は7文字で、有名どころではソラスズメダイ、バショウカジキ、ミナミハコフグなどが挙げられる。標準和名の最も少ない(短い)文字数は2文字でコイ、アユ、ブリなどが挙げられ、1文字の魚はいなかった。最も多い(長い)文字数は17文字でフサフサヒレナガチョウチンアンコウのみだった。文字数の多いトップ3に焦点を当てると、2位の16文字はケナシヒレナガチョウチンアンコウ、ミツクリエナガチョウチンアンコウ、イリオモテパイヌキバラヨシノボリの3種、3位の15文字はサンヨウコガタスジシマドジョウ、サンインコガタスジシマドジョウ、トウカイコガタスジシマドジョウ、シノハラリュウキュウイタチウオ、フタスジリュウキュウスズメダイ、イシガキパイヌキバラヨシノボリの6種であった。

海外産にはもっと長い標準和名を持つ魚がいた

 しかし、海外産の魚類に目を向けると、日本産の魚類と同等もしくはそれ以上の文字数の標準和名もしくは流通名が付けられている魚がいた。私がインターネットで調べた限りの魚類の長い名前を紹介しよう。標準和名に相当すると思われる和名が付けられた海外産魚類は、17文字のウケグチノホソミオナガノオキナハギ、18文字のジョルダンヒレナガチョウチンアンコウ(三澤ら(2022)でも使われていた)が従来長い名前として知られていた。また、偶然にも魚類学雑誌69巻2号をパラパラめくっていると、黒木ら(2022)がオーストラリアショートフィンウナギ(17文字)、ニュージーランドショートフィンウナギ(18文字)と同等の文字数の長い海外産魚類の標準和名を提唱していた。

 一方、熱帯魚の流通名ではスーパーブラックドラゴンスタークラウンプレコ(22文字)などもっと長い名前もいるようだが……これを和名と捉えるかは正直微妙なところである(少なくとも標準和名ではない)。これを言うとブルーギルはどうやねん?というまたややこしい話になってくるが……とにかく、学術的に提唱された魚類の標準和名という点で考えると、日本産魚類ではフサフサヒレナガチョウチンアンコウが17文字で最長、海外産魚類ではジョルダンヒレナガチョウチンアンコウとニュージーランドショートフィンウナギが18文字で最長という結果になった。長い名前は覚えにくいかと思いきや、意外とすらすら口から出てくるのが不思議なところである。

~今日の一首…?~

 フサフサヒ
  レナガチョウチ
   ンアンコウ
    長過ぎるかな
     短歌詠めない

参考文献

Tuji, A. and Niiyama, Y. 2022. First record of algal ball-forming Aegagropilopsis clavuligera (Cladophorales, Ulvophyceae) from Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science Series B (Botany), 48(4): 109-116.

三澤遼・鈴木勇人・甲斐嘉晃.2022.東北地方太平洋沖から得られた日本初記録のヒレナガチョウチンアンコウ科魚類 Caulophryne polynema フサフサヒレナガチョウチンアンコウ(新称).魚類学雑誌,69(2): 129-136.

黒木真理・渡邊俊・塚本勝巳.2022.世界に分布するウナギ属魚類の標準和名.魚類学雑誌,69(2): 169-182.

本村浩之.2022.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 18(2022年11月21日更新).

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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