またまた蚊の好みのメカニズムに関する研究 (10月18日 Cell オンライン掲載論文)

2022.11.03

今年の5月、ネッタイシマカの脳の反応を調べて、蚊が好む人間の臭いを探った、プリンストン大学が Nature に発表した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/19624)。


「たかが蚊、されど蚊」と言うべきか、これほど大がかりな研究が小さな蚊で可能になっているのに驚いたが、今度はロックフェラー大学から、蚊の行動を指標に、蚊が好む人間の臭いの元を探った研究が10月18日 Cell にオンライン発表された。


タイトルは「Differential mosquito attraction to humans is associated with skin-derived carboxylic acid levels(蚊が人間に寄せ付けられる時の好みは皮膚由来カルボン酸レベルで決まる)」だ。


蚊を寄せる刺激は、炭酸ガス、熱といった基本的な刺激に加えて、蚊に刺されやすさを決める一人一人異なる皮膚の臭いが存在する。


この刺されやすさが、多くの研究の焦点で、前回紹介した論文では、蚊の好みを決めているのは長鎖のアルデヒドをベースにした臭いカプセルだったし、乳酸ではないかという論文も存在する。


この研究では蚊が存在するチェンバーに腕や、臭いのついたストッキングを晒して、蚊の集まりを見る方法で、28人の臭いについて調べ、最終的に最も蚊に好まれる人物と、全く蚊が寄りつかない人物を特定している。


その上で、この違いが長期間維持されるか、場合によっては1年半実験を繰り返して、蚊の好むヒトの臭いは、その人の臭いとして定着していることを確認している。


蚊の嗅覚システムはよく研究されており、臭い受容体を助ける分子のノックアウト実験から、人間の臭いの違いを区別するのは、アンテナに発現して酸性分子を識別するのに必要な Ir25a 及び Ir76b の寄与が極めて大きいことを発見している。


このように Ir 分子の寄与が大きいことは、感知される成分は酸性であることを示唆しており、蚊に好まれる被験者にはいてもらったストッキングから化合物を抽出し、蚊が反応する分子を個別に探索、蚊に好まれる人は3種類のカルボン酸を多く発生させていることを突き止めている。


最後に、別の集団で蚊が好きな人と、嫌いな人を分け、それぞれのカルボン酸の発現を調べると、好まれる人で3種類のカルボン酸を発生させている人が多いことから、カルボン酸が蚊に好まれる人と好まれない人を分ける分子であることを提案している。


ただ、蚊に好まれないにもかかわらず、カルボン酸を多く発現している個体も存在することから、これに加えて蚊の嫌いな分子を出している人もいるようで、結果は必ずしもシャープではない。しかし、これほど大がかりに蚊の好みを突き止めようとすること自体に脱帽だ。


今後、このような好みを打ち消す分子などの研究が進んでいくのだろう。


いずれにせよ、蚊が人間を避けるようになれば、多くの伝染病を克服することを期待できる。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。