過度なダイエットで現役引退した新体操選手が、女性の健康を守る研究者になった話

2022.10.22

皆さま、こんにちは。俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。

「独立系研究者に学ぶ!フリーランス処世術」のシリーズです。今回は第6回。どんなお話が聞けるのでしょうか!?

本日は、本田由佳先生にお話を伺いました!

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この連載企画では、フリーランスとして活動している俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太が、「独立系研究者」からフリーランスとしての生き方を学び、皆さまにシェアします!

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本田由佳先生 プロフィール

◆本日のゲスト:新体操選手から研究者になった本田由佳先生!
本田由佳 博士(医学)・健康科学者

専門:女性と子供の健康
順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科卒・順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム 上席所員。病院や様々な機関(大学、企業等)と業務委託契約を結んで研究プロジェクトに参加している。「女性と子どもの健康力をあげて日本を元気に!」を使命に活躍中。

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研究者を志したきっかけ

本日はよろしくお願いします!まずは、研究者を志したきっかけを教えていただけますか?

 

 

私は小学校5年生の頃から新体操をやっていたんですけど、中高と続けていく中で、例えばターンする時の重心の位置ってどれが正解なんだろうとか、フープを投げる時に、投げ方で回転の勢いが違うのはどうしてなんだろうとか、色々考えるようになったんです。

 

けっこう理系的な考え方というか、研究者の視点みたいですね。

 

 

 

そうなんです。力学的なことだったり、解剖学的なところも関わってきますよね。ビデオを見たりして、少しでも自分のパフォーマンスを上げようと考えた時に、もう少し科学的に解析できたら良いなと。それで、研究者になりたいと思うようになりました。

[緑ヶ丘女子高等学校・3年でインターハイや国体に出場(左から3人目が本田先生)]

僕は高校まで水泳をやっていたのですが、科学的なアプローチが大事かもしれないとぼんやりと思いつつ、基本的には気合いと根性でした(笑)

 

 

気合いと根性は大事ですね。新体操って体型が大事なので痩せなきゃいけなくて。でもエネルギー消費が激しいので、ちゃんと栄養も摂らないといけないんですけど、必要な知識もないまま、とにかく気合いでダイエット!みたいなこともしてました。

 

10代で体力があるとはいえ、身体に負担がかかっていそうですね。

 

 

そうなんです。当時部活で毎週体重計測があったので、それに向けて常に無理をしている感じだったのですが、高校3年の時、ついに限界がきてしまって。お医者さんから「これ以上ダイエットを続けたら死ぬよ」とまで言われてしまいました。当時、肌も髪もボロボロで、生理も止まっていたのに、お医者さんに止められるまで突っ走ってしまいました。

ドクターストップですね。ある意味とんでもなくストイックだったというか・・・

 

 

体調がよければ大学でも選手を続けていられたと思うのですが、高校までで現役は引退して、コーチとしての技術をつけながら、競技に関することを科学的に学びたいと思うようになりました。それで、日本女子体育大学とか、東京女子体育大学のようなスポーツの女子大というところを受けたのですが、全部落ちちゃったんです。

 

そこからまた次なる目標ができたのでしょうか?

 

 

ちょうどその時期、箱根駅伝を観ていたら、順天堂大学にスポーツ健康科学部が出来るのを知りました。体育大のように新体操の指導者になったり、新体操を科学することは出来なくても、もっと広い視野でスポーツや健康について学ぶことで、スポーツ選手に限らず、より多くの人に役立つ研究が出来るかもしれないと思って一般で受験し、無事入ることができました。

 

順天堂大学ではどんなことを学ばれたのでしょうか。

 

 

 

授業も色々あったのですが、やはり研究者を目指すということで、大学1年の時には医学部小児科の研究に参加しましたし、3年で生理学研究室に入って研究を始めました。

[20歳の頃の本田先生の骨。小児科の研究に参加した際のもの]

3年から研究を始めるとはなかなかのガッツですね!(通常は4年から) 生理学は、生物学の基礎的な分野だと思いますが、選ばれた決め手は何だったのでしょうか?

 

 

大学の授業に理化学研究所の方が来られた時に「研究者になるにはどうしたら良いですか?」と聞いてみたら「基礎的な分野をしっかり学んだ上で、誰にも負けない得意分野を持つと良いよ」って言われたんです。

 

 

ちなみにどんな研究をされていたのでしょうか。

 

 

 

カエルに電気刺激を与えて、筋肉の収縮の時のカルシウムの動きを調べる興奮収縮連関(E-C coupling)の実験をやっていました。アクチンとミオシンがスライドする時にカルシウムが出てスライドするっていう・・・でも4年の時は、新体操をやっている人とそうでない人の平衡感覚の違いみたいなことをやって、それを卒業研究にしたんですけど。

 

そこから大学院には進学せず企業に就職されたんですよね?

 

 

 

さっき、新体操選手時代に毎週部活での体重測定があったとお話しましたが、当時は1日15回くらい体重計に乗ってたんです。起床時、練習前後、ご飯の前後、入浴前後とか毎回。大学に入ってからも1日最低5回は乗っていたのですが、ある時、その体重計の裏を見ると、株式会社タニタって書いてあって、住所も載ってたので、手紙を書いたんです。

 

体重計に乗る回数も、手紙を書いちゃう勢いもすごい・・・

 

 

 

ただ体重計に頻繁に乗ってはいたんですけど、自分は過度なダイエットをしてしまって結果的に体を壊してしまった。だからそういう健康被害にあう人を減らしたい。そのための体重計を開発したいです!みたいなことを書いたんです。そうしたら、書類を送ってくださいと連絡が来て、その後の面接を経て研究職で採用いただきました。

体重計の研究

タニタではどんな研究をされたのですか?

 

 

 

研究開発部っていう体脂肪計の中身やロジックを作っている部署に配属されまして、最初の1年間は、体脂肪計の原理のインピーダンスっていう、体の中に微弱な電気を流して、50kHzだと細胞は通過し、低い周波数だと細胞を通過せず細胞をよけていくので細胞外液が分かる、とかっていうのを学びながら、自分でテーマを決めて実際に商品を考えて、そのために色々実験したり、良さそうだったら特許を出す、みたいなことをしていました。

1年目にして実験から商品開発まで担当されていたのですね!

 

 

 

でも新卒1年目で結婚して、翌年には子供を産むことになったんです。そしたら当時タニタの中で、妊婦さんの妊娠高血圧症候群(当時は、妊娠中毒症と呼ばれていた)を予知できる機器開発をやろう!っていうチームが出来まして、妊婦さんなんだから、自分のデータ取ってよ!みたいな感じで、産休中もデータを取りつつ、解析もしつつ、みたいな生活になりました。

 

今度は妊婦さんとして毎日体重計に乗る生活ですね。

 

 

 

育児休暇中も実験やデータ収集用の機械を持ち帰ってデータを取ったりとかしてました。育児休暇から復帰したら、今度は、妊婦さん向けの体脂肪計を作るというプロジェクトがあって、それを担当することになりました。

 

 

妊婦さん用って、一般的な体重計と何か違うのでしょうか?

 

 

 

妊婦さんが一般の脂肪計に乗ると、赤ちゃんの重さ、羊水の重さとかが全部、ママの脂肪量として出てきちゃうんですよ。妊婦さんの身体だけについた脂肪がわかって、赤ちゃんが生まれた前後で計っても、ちゃんと妥当な推移になるものを作ろうという感じです。

 

なるほど!それは大切ですね。

産婦人科の先生たちとの共同研究などを進めていく中で、自分には妊娠出産の経験はあるけど、研究をするための知識や経験が乏しいなと感じました。そんな時、ちょうど東大の母性看護学っていう教室が研究員を受け入れてくれるというのを知って、会社にお願いしたら、行かせてもらえることになったんです。

 

会社員と研究員の両立っていうのはどういう形なのでしょうか?

 

 

 

毎週火曜日は東大に行って、他の日はタニタでという形です。私は商品開発をする上で必要な研究をして学会発表を行ったり、開発した妊婦さん用の機械を使って大学院生が論文を書くサポートもしていました。

 

 

妊婦さん用の体脂肪計は完成したのでしょうか?

 

 

 

完成しました!バンダイさんに突撃して、企画と想いを伝えて開発OKをいただき、商品として世に出すことが出来ました!

発売当時のニュース記事

 

 

妊婦の体脂肪量が測れるというのは、当時世界初の機能でした。他にも、電極を赤ちゃんの足型にしたり、妊娠や出産に関する情報が閲覧できるよう辞書機能をつけたり、息抜きにちょっとしたゲームもできるようにもしました。体重計に乗るのが作業にならないように「楽しくはかる」という部分にこだわりました。

 

エンタメ業界にいる人間として、とても共感できるコンセプトです!

 

 

 

東大の研究員としては結局8年間在籍していたのですが、やはり博士号が取りたいと思うようになって、順天堂大学医学部の博士課程に入りました。

[東大時代に所属していた教授からのメッセージが励みになったそうです]

医学部卒とか、他大学の大学院卒じゃなくても入れるのですね。

 

 

 

基本的にはそのどちらかでないと入れないのですが、当時は7年以上の研究歴が認められればOKという制度になっていまして、タニタと東大の研究歴を提出して認めてもらえました。そのタイミングで東大の研究員は辞めて博士学生になりました。

 

会社に勤めながら、医学部の博士課程に通うのは大変じゃなかったですか?

 

 

 

医学部の博士って、日中は診療している医師向けにプログラムが作られているので、夜に集中して授業があったり、夏休み等の集中講義で単位が取れるようになってたりして、私は日中に診療などがない代わりに会社で働いたり、子育てをしていたという感じなので、やり切ることが出来ました。

 

その後、どういう流れでフリーの研究者になられたのでしょうか?

 

 

 


博士論文にする研究に、産婦人科の先生が入ってくださってて、その先生から「開業してる病院ってデータがいっぱい集まるんだけどなかなか手をつけられなくて。データを分析して学会発表したり、助産師さんとか、栄養士さんたちが経験則で思っていることを、研究して見える化するのを手伝ってほしい」って頼まれたんです。

独立系研究者へ

医学部博士課程の2年目が終わってタニタを退職して、群馬県高崎市の産婦人科(産科婦人科舘出張 佐藤病院)で周産期データの解析や学会発表スライドの作成などをさせていただくようになったのですが、週1回の病院勤務日以外はリモートワークで大学や自宅で作業を進めていたので、博士課程の残りの2年はしっかり研究することができました。

博士号を取ってから独立!ということではなくて、博士課程在学中にフリーランスデビューされたのですね。

 

 

そういうことになります。それで、その病院の産婦人科で働きながら、他にもみんなが困っている健康のことを解決できる研究や啓発ができたらいいなって思っていたら、慶応大学のプロジェクトで人が足りないから手伝ってほしいと声をかけてもらえたんです。

 

それで、今の研究に繋がるわけですね!

 

 

 

最初はちょっと違う内容で関わっていたのですが、慶応大SFC研究所の中に健康情報コンソーシアムという、マルチステークホルダー・プロセス(リンク:内閣府HP)による産官学連の健康情報の創成を目的とした組織が出来まして、今はそこで「女性と子どもの健康情報プラットフォーム開発」を中心に取り組んでいます。

女性や子供の健康という分野の関心は高まってきているのでしょうか?

 

 

 

そうですね!最近はこのコンソーシアムのプロジェクトにも興味を持ってくださる企業さんが多くて、会員企業さんも増えてきています。色々な企業さんや個人会員さんにもサポートいただきながら、研究だけでなく啓発にも力を入れて活動しています。

缶バッジや小冊子、どれもかわいいです!

 

 

 

それから慶応だけでなく、国立成育医療研究センターでも研究をしていたのですが、低体温は女性の健康にどのような影響があるのかという研究成果は反響が大きかったです。月経管理アプリを利用する女性のビッグデータ分析から、低体温の女性は月経異常の傾向があることがわかりました。朝食を日常的に取っていないこととの関係が考えられるので、研究はもちろん、健康改善に繋がる発信まで、しっかりやっていきたいと思っています。

今後の目標

最後に、今後の目標を教えてください。

 

 

 

最近は、人のボディラインのシルエットに注目しています。人それぞれ身長や骨格の違いもありますけど、それプラス、筋肉や脂肪の量によってもシルエットが変わってきますよね?そのシルエットをAIで解析できるようになれば、体重計がなくても体重や体の中身がわかって、健康予測ができるのではないかと考えています。

 

「乗らない体重計」ですね!!

 

 

 

例えば、駅の自動改札のところにシルエットを測るカメラを置いて計測すれば、街ごとに住民の健康リスクを測定することも出来るのではないかと考えています。あと単純に、靴下を脱いで、グリップを握って、とかやらなくて良いのは楽で良いですよね。

 

研究といえば論文を書くことという認識の方が多く、実際に多くの研究者はそれを求められると思うのですが、本田先生は社会実装とか行動変容というところを大切にされているように思います。そこには理由や想いがあるのでしょうか?

私の研究テーマは、スポーツでの経験とか、妊婦、母としての体験っていう、自分の人生の中から生まれるものが多いので「こういう人たちに、こうなってほしい!」という明確な気持ちがあるのかもしれません。それと、今の拠点の一つ、慶応大学SFCでは「社会実装をどれくらいしているか」も評価されるので、こういう取り組みがしやすいです。女性と子供の健康のために出来ることはまだまだあるので、これからも色々挑戦していきます!

[23年前の息子さんの写真(当時1才)。本田先生のパワーの源]

素敵なお話、ありがとうございました!

 

 

 

インタビューを終えて

インタビューが終わった後、本田先生がタニタ在籍時に携わっていたプロ仕様の体組成計に乗りました。5歳から水泳を始め、高校からはシンクロで鍛え上げてきたので、アスリート体型の自信ありでしたが、果たして結果は・・・!?

アスリート寄りの、一般体型でした。笑
フリーランスは健康第一。今回のインタビューを機に、運動、そして食生活も見直して、いつでも本来のパフォーマンスが発揮できるよう心身ともに磨いていこうと思いました。

[ランニングはじめました!]

ご挨拶

「独立系研究者に学ぶ!フリーランス処世術」の連載はいったん今回で最終回です。

独立系研究者から独創的なアイデアやロジカルシンキングを学ぼう!というのが当初の目的ではありましたが、独立系研究者の皆さんは研究が大好きで、情熱とチャレンジ精神に溢れた方々でした。仕事に一番大切なのは何か、人の魅力はどこから来るのか。そんなことを教わったように思います。

自分自身もフリーランスの一人として、精進いたします!

取材させていただいた先生方、そして、これまでご覧いただいた皆様、ありがとうございました!

"独立系研究者"に学ぶ! 過去シリーズはこちらから

(著:佐伯恵太)

【著者紹介】佐伯 恵太

俳優 / サイエンスコミュニケーター。
1987年5月30日生。京都出身。京都大学大学院理学研究科で修士号を取得し、日本学術振興会特別研究員(DC1)として同大学院博士後期課程に進学。1年間の研究活動の後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主。現在は、科学とエンターテイメントの架け橋になるべく、俳優・サイエンスコミュニケーターとして活動中。
【出演ドラマ】BS時代劇「大富豪同心」シリーズ / 「ABEMAヒルズ」コメンテーター / 日本科学振興協会(JAAS)正会員 / 「エンタメ×科学」のプロ集団「asym-line(アシムライン)」代表
プロデューサー・監督・出演者として、YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜(※)」を手がけている。
※「東京応化科学技術振興財団」助成事業