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ガンに頻発する変異を眺めて改めて認識させられるのが、ガン増殖に代謝プログラムが深く関わっていることだ。
中でも、悪性のグリオーマで頻発する isocitrate dehydrogenase (IDH) の変異で、代謝の基礎とも言える TCAサイクルに関わる酵素が関わっているので、エネルギー代謝が大きくシフトすることが、ガンの増殖を助けるのかなと考えていた。
しかしその後の研究で、IDH変異は単純な機能低下変異ではなく、新しい機能が生まれて、IDH1、IDH2変異とも、最終的に 2-hydroxyglutarate(2HG) が細胞内に合成、蓄積され、これが TET やヒストン脱メチル化酵素を阻害、ガンのエピジェネティックスを大きく変化させるとともに、HIF1 を活性化して、低酸素転写プログラムを誘導することが、発ガンに大きく関わることが明らかになった。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、IDH変異を持つガンにより合成される 2HG が、ガンだけでなく周りの免疫系に影響を持つのではと着想し、作用メカニズムを調べた研究で、9月30日 Science に掲載された。
タイトルは「Oncometabolite D-2HG alters T cell metabolism to impair CD8 + T cell function(ガン由来代謝物 d-2HG はT細胞代謝を変化させて CD8T細胞機能を抑制する)」だ。
IDH変異では高レベルの 2HG が合成されるので、少なくともガン局所は mMレベルの濃度になる。しかし、ガンの増殖を助ける代謝物は免疫細胞も活性化するのかと思っていた。
ところが、キラー細胞を 2HG で処理すると、T細胞の活性化は起こっても、キラー活性に必要なグランザイム分泌や、さらにはインターフェロンγ の分泌が強く抑制されている。
また、IDH変異を持つガン患者さんでは、CD8T細胞の浸潤が低下している。ただ、ガンのように、2HG によって、エピジェネティックな変化や、HIF1転写が大きく変わるわけではなく、この効果は 2HG に触れたときだけの急性効果であることがわかる。
そこで、2HG により何が起こっているのかを調べると、2HG がピルビン酸から乳酸を合成する LDH-A を阻害すること、そしてこの結果、糖分解経路が低下し、この結果 NAD/NADH バランスがミトコンドリア呼吸複合体を介して、ミトコンドリア膜の過分極を誘導、T細胞はミトコンドリア依存性のエネルギー代謝が高まり、活性酸素が高まることで、急性の機能不全に陥ることを示している。
簡単に述べたが、実際には代謝経路を、阻害剤やトレーサー実験を用いて詳しく調べている。
以上、ガンから発生する 2HG が急性効果ではあるが、グリコリシスを抑え、ミトコンドリア呼吸を高め、この変化がインターフェロン分泌と、キラー活性に必要なグランザイム分泌が低下させる原因であることを明らかにしている。
とすると、現在行われている IDH を阻害する治療は、ガンの増殖を大きく変化させられなくても、十分治療に使う可能性はあると思う。