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抗原刺激を受けたT細胞は PD1 分子を発現し、それが刺激されることで反応が抑えられるチェックポイントを持っている。
これをブロックして、抗原特異的T細胞が消耗するのを防ぐのがチェックポイント治療で、ガン治療に導入され大きな成功を収めた。
ただ、チェックポイント機能を抑えるだけでは、T細胞を刺激しているわけではないので、患者さんのT細胞が持続的に活性化出来るかどうかは他の因子にかかっている。
この不確定性を克服するため、PD1 を発現した細胞をさらに IL2 などで刺激し、他のルートから細胞を活性化する試みが行われ、一定の成功を収めている。
これまで紹介したように、IL2 では、CD25 に結合性のない、変異型のサイトカインが設計され、CD8T細胞だけを増やすことも出来るようになり、新しい方向の治療として期待されている。
今日紹介するスイス・チューリッヒにあるロッシュイノベーションセンターからの論文は、IL2 刺激を PD1 を発現して消耗が始まった T細胞特異的に提供することで、チェックポイント治療とは質的に異なる治療が可能になることを示した研究で、9月29日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「PD-1-cis IL-2R agonism yields better effectors from stem-like CD8 + T cells(PD1陽性細胞のIL2受容体を刺激することで幹細胞様CD8T細胞から優れたエフェクター細胞を誘導できる)」だ。
論文では膨大なデータをこれでもか、これでもかと示す、さすが製薬企業と思わせる研究で、しかも使っているモデルや材料を見ると、おそらく膵臓ガンに狙いを定めていることがよくわかる論文だ。
この研究では、IL1 刺激とチェックポイントを別々に行う方法で、CD25 結合のない IL2βγ 受容体結合リガンド( IL2V)の免疫増強効果を調べ、通常の IL2 より効果が低く、IL2V の効果を利用するためには、PD1 を発現した細胞に選択的に IL2V を提供することが重要だと結論し、この目的のために、PD1 に対する抗体に IL2V を結合させたキメラ分子を開発している。
立て付けとしては、PD1 を抑制するとともに、同じ細胞の IL2βγ 受容体からシグナルをいれる方法といえるが、LCMウイルスを用いた慢性感染実験で調べると、PD1 抑制では得られない、異次元の細胞が誘導でき、高いキラー活性が維持できることがわかる。
メカニズムを解析すると、PD1- IL2VはPD1;TCF1+の幹細胞様として知られる CD8T細胞に働いて、増殖を維持して幹細胞の働きを助けるとともに、キラー効果を発揮するエフェクター細胞への分化をバランス良く維持する効果を持つことがわかった。
さらに、PD1- IL2V は IL2Rβγ受容体とともに細胞内に取り込まれ、IL2V の効果を持続させる働きまである。
基礎的な検討の紹介は全て省くが、基本的には免疫を下げる遺伝子の発現を抑え、エフェクター機能を高めている。
最後に満を持して、膵臓ガンモデルへの投与実験を行い、チェックポイント治療では到底到達できなかったレベルの治療効果が存在すること、さらには PD-L1 に対する抗体を組みあわせて、チェックポイント機能を完全に抑えると、効果がさらに高まることを示している。
そして、増殖している T細胞受容体遺伝子も調べ、これが腫瘍内で腫瘍特異的T細胞が選択的に増殖している結果であることを示し、期待を持たせて終わっている。
以上が結果で、論文全体から膵臓ガンを治すぞという気持ちが伝わる論文だ。この技術は、ガン浸潤細胞の増幅などにも利用できるため、期待したいと思う。
ただ、ガンに対して異次元の反応を誘導できることは、間違うと異次元の自己免疫副作用が出るのではと心配する。
おそらく、これに抗原刺激ワクチンを組みあわせると、ついに免疫治療のゴールに入れるのかもしれない。