続く地道なワクチン研究(9月21日 Nature オンライン掲載論文)

2022.10.06

今回 Covid-19 パンデミックで示された、ワクチンの大成功は、標的抗原の遺伝子構造決定からワクチン製造までが、いかに迅速に行うことが出来るかを示し、ワクチン製造には何年もかかると述べていた専門家の予言を見事に裏切った。


しかし、標的の遺伝子配列がわかったからといってワクチンは決してすぐに実現するわけではない。


実際には、それまでの長い基礎研究の積み重ねがあり、Covid-19 の場合、SARS や MERS ワクチンの研究の上に存在する。この辺を見誤ると、無駄な投資で終わる。


実際、マラリアをはじめ多くの病原体のワクチン開発は進歩が遅い。今日紹介する La Jolla 免疫研究所からの論文は、ワクチン開発が難しい HIV ウイルスのエンヴェロップ蛋白質に対するサルのリンパ節での反応を丹念に調べた研究で、9月21日 Nature にオンライン掲載された。


タイトルは「Long-primed germinal centres with enduring affinity maturation and clonal migration(時間をかけて免役した胚中心では、持続する親和性の上昇とクローンの移動がみられる)」だ。


La Jolla 免疫研究所は Covid-19 の免疫反応解析でも、重要な論文を発表し続けてきた研究所だが、この研究はエイズウイルスワクチンのための基礎研究になる。


といっても、全ての実験はサルを用いて行われており、しかも免疫誘導で最も知りたいリンパ節のバイオプシーを用いて解析されている。


既に抗体誘導については研究の蓄積があり、一回で全ての抗原を注射するのではなく、0.1μgから初めて、31.6μgまで抗原をサポニンタイプのアジュバントとともに、徐々に量をエスカレートさせ、2日おきに7回注射する方法が抗体誘導効率が高いことがわかっており、この免疫スケジュールでリンパ節で何が起こっているのか調べている。


結果をまとめると以下のようになる。

  1. まず、7回分割投与の場合、驚くことに胚中心型B細胞が持続的に維持される。このタイプのB細胞は増殖し、抗体遺伝子の変異やスイッチが続いていくタイプで、通常免疫後1ヶ月程度で低下し、記憶型に変わるとされてきた。

    胚中心型B細胞が持続するためには、抗原が長期に維持される必要があるので、おそらく2日ごとに注射する方法によって誘導されてきた抗体が抗原と結びついて、樹状細胞に長くとどまると考えられる。

  2. ウイルス感染予防に必要な中和抗体は、初期免疫の後のブーストが必要で、抗体自体は1ヶ月で低下する。エイズの場合、最初の免疫では誘導が出来なかったのは、リンパ節内で進化が続いており、これを再活性することで高い中和抗体が実際に産生されることになる。

  3. 様々なバリアントに対して抗体が必要になるエイズ免疫にとって最も重要なことは、リンパ節内の進化の過程で、特定のクローンが優勢になるのではなく、多くのクローンが維持され、進化することで、この結果様々なバリアントに対するB細胞を用意することができる。

  4. 胚中心型B細胞の遺伝子から、抗体を再構成すると、親和性が200倍に上昇していた。また取り出したB細胞では突然変異も蓄積され、さらに様々なクローンが維持されていることが確認される。

  5. 面白いのは、ブースターを遅らせたほど、進化が進むことで、抗体を誘導して感染を防ぎたいときはブースターが必要だが、質のいい、多くのクローンを擁するレパートリー形成には、ブースターは必要がない。

  6. 記憶型の細胞も形成され、体内のリンパ節に移動して、次の免疫や感染に備えることが出来る。

  7. T細胞については、正確に定量出来ていないが、ブーストの後で強く増殖することは確認している。

以上、ワクチンを開発するためにここまでやることの重要性がよくわかる論文だ。


政府もワクチン研究に投資するとしているが、モダリティーなど表面的なことではなく、ここまでの基礎研究を支援する覚悟がないと、ほとんど金の無駄遣いになるように思う。

By西川伸一

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。