114番元素「フレロビウム」は水銀よりも揮発しやすい金属と判明

2022.09.21

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、114番元素フレロビウムの化学的性質だよ!

フレロビウムは合成しても何秒も存在できない極めて不安定な元素だけど、水銀よりも気体になりやすいかもとか、もしかすると貴ガスかもしれないと、面白そうな性質が注目されていたよ!

ただ、合成も分析も難しいことから、今回新たな実験でその性質に迫った、というのが、今回紹介する研究だよ!

そしてこの研究は、何も私たちの身近に全く関係ないお話ではなく、実感こそわかないかもだけど、私たちの身近にもつながってくるかもしれない結果となるんだよ!

フレロビウムの化学的性質1

周期表通りとはいかない重い元素の性質

私たちの身近にある物質は全て原子の集合体だよ。原子はそれぞれに固有の化学的性質があり、それで分類を分けたものを「元素」と呼ぶよ。

元素は現在118種類が知られているけど、全ての元素が身近にあるのかと言えばそうではなく、基本的に見当たるのは1番元素の水素から92番元素のウランまでだよ[注1]

それより重い超ウラン元素は、基本的には天然には存在せず、人工的に合成するしかないよ。これは原子番号が進むほど、元素としては重くなるほど合成しにくくなるよ。

特に原子番号が100番を超えるような元素[注2]は、ある原子を加速し、別の原子に衝突させることで、偶然核融合反応が生じるのを狙うしかなく、とても合成しにくいよ。

なので、狙った原子を1個作るのに、何億回、何兆回、何京回もの数の原子を照射することは珍しくないことから、作るだけでも大変だよ。

更に、せっかく合成してもそのような重い元素は不安定で、1秒前後で崩壊してしまうものも珍しくないよ。だから、合成した元素を速やかに分析に回す必要があるよ。

これほど難易度の高い元素合成や化学的分析を行える装置は世界にいくつもないことから、重い元素のほとんどは基本的な化学的性質すら知られていないんだよ。

一方で、なぜこのような一瞬にして消えてしまう元素の化学的性質を調べているのかというと、それは身近な元素を含む化学の難題に絡むからだよ。

元素の基本的な性質は、元素の周期表の位置によってある程度予測が可能である、というのが、1869年に周期表を考案したドミトリー・メンデレーエフ以来の標準的な考え方だったよ。

一方で科学技術の進歩や新しい理論の開拓で、とても重い元素の化学的性質は、必ずしも周期表に従うわけではないらしいこともわかってきたよ。

化学反応というのは原子同士での電子のやり取りなので、元素の化学的性質を決定するのは電子であり、特に原子の一番外側にある最外殻電子[注3]が性質を強く決定するよ。

一方で、電子は原子核の周りを回っていること、重い原子ほど回る速度が速くなっていくことから、重い原子では一般相対性理論の効果を無視できなくなってくるよ。

これを相対論効果と呼ぶんだけど、安定な元素でも、相対論効果によって周期表からやや外れた性質を示している例として水銀や鉛[注4]が存在するよ。

そして最近の技術進歩で、かなり重い元素でも化学的性質を調べられるようになり、この相対論効果がさらに強く影響していることが分かりつつあるよ。

合成も分析も難しい、しかし興味深いフレロビウム

そして、現在最も化学的性質の探索が注目されている超ウラン元素の1つに、今回のお話の主役でもある「フレロビウム」が登場してくるよ。

114番元素のフレロビウムは、周期表で見れば炭素族に属するから、基本的な性質は炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛に似ているはずだよ。

しかしながら、フレロビウムに関する過去の研究では、炭素族には見られない性質をとても強く示すのではないかと予想されてきたよ。

まず、フレロビウムはとても反応性に乏しい元素であり、場合によっては貴ガスに匹敵するほど反応性が低いのではないかという予測があったよ。

もう1つは、フレロビウムはとても揮発性の高い金属であり、場合によっては室温で液体や気体を示すほどなのではないか、という予測もあったよ。

相対論効果によるフレロビウムの化学的性質の変化は、他の超ウラン元素と比べても著しいものと予測されていることから、フレロビウムの性質はとても注目されているんだよ[注5]

ただし、フレロビウムは簡単に合成ができないゆえに、実験回数が限られていて、その性質については矛盾する2つの答えが現れていたよ。

それは2009年にドイツの重イオン研究所から報告されたもので、2つの実験で合計5個のフレロビウム原子が合成され、性質が調べられたよ。

最初の実験では、3個の原子が貴ガスのような性質を示し、あまり金属ではないという結果だったよ。しかし次の実験では、2個の原子は金属のような性質を示したよ。

この矛盾する結果は、どちらかの結果が根本的に誤っているのか、それとも結果の平均値が真の性質なのかも含め、フレロビウムの性質を曇らせてしまったよ。

フレロビウムの真の性質に迫る!

そこで今回、新たに重イオン研究所を筆頭とする国際研究チームが、フレロビウムの真の性質に迫る研究を行ったよ。

実験ではフレロビウムの合成のために、イオン化し光速の10%に加速したカルシウム48をプルトニウム244ターゲットに衝突させる実験を行ったよ。

カルシウム48とプルトニウム244が衝突すれば、核融合反応によって比較的寿命の長いフレロビウム288とフレロビウム289の合成が期待されるよ。

と言っても、フレロビウム288とフレロビウム289の半減期はそれぞれ0.65秒と2.3秒であり、速やかな物性の測定が必要なことに変わりはないよ。

フレロビウムの性質を調べるための装置

フレロビウムは加速器で合成された後、初めに二酸化ケイ素のチップ、次に金のチップが並ぶエリアへ輸送されたよ。二酸化ケイ素や金のチップに付着するかどうかを、他の元素と比較することで、フレロビウムの化学的性質を調べるんだよ。 (画像引用元: 原著論文Fig1)

ではどうしたのかというと、合成されたフレロビウム原子はカルシウム48のビームに交じって高速でターゲットから飛び出すため、まずはこれを分離し減速させる必要があるよ。

そこで、強力な磁場をかける装置でフレロビウム原子を分離し、次に化学的性質に影響しないヘリウムとアルゴンの混合気体に衝突させ減速させたよ。

そしてその先には、初めに二酸化ケイ素のチップが、次に金のチップが並んでいるエリアへと到達するよ。このチップは先端部が液体窒素で冷却され、先に行くほど低温になるよ。

このエリアがフレロビウムの化学的性質を決めてくれるよ。フレロビウム原子はこのチップの上に衝突するけど、チップに付着しその先まで進まないか、もしくは跳ね返って先まで進むはずだよ。

どの物質に付着するのか、という性質は、原子の外側の電子が決定する性質だから、具体的な化学反応ではないけど、元素の化学的性質を決定してくれるんだよ。

そして、二酸化ケイ素と金では、元素ごとに付着するか付着しないかが変わってくるので、フレロビウムはどの元素と似ているのかを比較ができるというわけだよ!

フレロビウムの予想される化学的性質は3つ

フレロビウムの性質は3つのどれかだと予想されたよ。1つ目は、周期表から予想される通りの炭素族元素、2つ目は水銀に近い揮発しやすい金属元素、3つ目は貴ガスのような反応性に乏しい気体だよ。これを調べるため、それぞれの候補でフレロビウムに近いであろうと予想された鉛、水銀、ラドンと比較されたよ。

その、フレロビウムと化学的性質を比較する対象としては、フレロビウムと似ている候補の元素である鉛、水銀、ラドンが試験されているよ。

まず鉛は、周期表の上下に並んでいる関係から、周期表通りならば最も性質が近いはずだよ。鉛は最初の二酸化ケイ素のチップに付着し、その先まで進むことはないよ。

次に水銀は、室温で唯一の液体の金属であるように、揮発しやすい金属の代表例だよ。水銀は二酸化ケイ素のチップには付着しないけど、その先の金のチップにはよく付着するよ。

そして最後はラドンだよ。化学的性質が調べられる最も重い貴ガスであり、化学反応の乏しさからどのチップにも付着せず先端部にまで到達するよ。

つまり、フレロビウムが最も手前で留まれば、フレロビウムは鉛とよく似ているということになり、逆に先端部まで到達すれば、フレロビウムはラドンに似ているとなるよ。

もちろん、物事には偶然がつきものなので、なるべく多くのフレロビウム原子を調べることで偶然の要素をなくしたいよ。そこで重イオン研究所は、6週間もビームを照射し続けたよ。

フレロビウムはとても揮発しやすい金属!

フレロビウムの性質は水銀よりも揮発しやすい金属元素!

実験の結果、フレロビウム原子8個中の5個が金のチップに付着した一方で、3個は付着せずに先端にまで到達したよ。これはフレロビウムが炭素族元素の鉛に近いという周期表通りの性質を示していない一方で、貴ガスに近いという予想も排除しているよ。

実に930京回ものカルシウム48イオンビームの照射の結果、3個のフレロビウム288と3個のフレロビウム289、合計6原子の合成に成功したよ。

そして、同様の実験が行われた2014年の2個の原子の結果と合わせて分析した結果、フレロビウムの化学的性質が見えてきたよ!

実験の結果、2014年と今回の実験、合わせて8個のフレロビウム原子のうち、5個は金のチップに付着し、3個は先端部まで到達したよ。

まず、二酸化ケイ素のチップに全ての原子が付着しなかった時点で、フレロビウムは周期表の通りの性質である鉛とは似ていないという結果が判明したよ。

次に、先端部まで到達したものはあるけど、多くは金のチップで付着したことから、フレロビウムはラドンのような完全に貴ガス的な性質を示しているわけでもないことが判明したよ。

では、フレロビウムは周期表通りの鉛や、貴ガスであるラドンとは似ておらず、揮発しやすい金属である水銀と似ている、と結論付けていいのかな?

少ない数の原子で性質を定める以上、他の可能性がどの程度強いのかを考慮し、偶然の要素を除外するため、もう少しだけ実験結果を詳しく検証してみたよ。

まず、実験装置の環境条件から、不純物として酸素がわずかなから侵入してしまうため、金属元素の酸化物が生じる可能性が無視できないよ。

ラドンは酸素と反応しないため、生じる可能性があるのは酸化鉛 (PbO) 、酸化水銀 (HgO) 、そして酸化フレロビウム (FlO) だよ。

このうち酸化鉛は、単体の鉛と同じくらい二酸化ケイ素のチップに付着しやすいため結果は変わらないけど、酸化水銀は単体の水銀よりも二酸化ケイ素のチップに付着しやすいよ。

これらの傾向と理論計算からは、もし酸化フレロビウムが生じていた場合、単体のフレロビウムよりも金のチップに付着しやすい結果が生じる可能性があるよ。

しかしながら、過去の実験では同じ条件で酸化水銀が生じた証拠がなく、そして酸化フレロビウムは極めて不安定な化合物であり、元から生じる可能性が低いと考えられているよ。

このため、今回の実験結果で金のチップにくっつきやすい性質は、単体のフレロビウムの性質とみて間違いない、ということが分かるよ。

凹凸のある金表面のエネルギーポテンシャルと原子の吸着

どんなに平らにしようと藻、実際には金の表面は数原子分のデコボコがあるよ。デコボコの角や溝は平らな部分と比べて原子を吸着しやすいため、吸着される原子と跳ね返る原子の2通りが生じることになるよ。 (画像引用元: 原著論文Fig6)

一方で、一部のフレロビウム原子は金のチップにくっつき、一部は先端まで到達したという挙動の違いは、フレロビウムというより金の性質によるものと推定されるよ。

どんなに滑らかに磨いた金の表面も、実際には原子数個分の単位でデコボコしているよ。そのような金の表面は、完全にまっ平らな状態とは異なる性質を示すよ。

金の表面がデコボコしている場合、必ず角や溝が生じることになるけど、この部分は平らな部分と比べてフレロビウムを吸着しやすいと推定されているよ。

つまり、たまたま金の角や溝にぶつかったフレロビウム原子はそこに付着する一方で、そこに当たらなかったフレロビウム原子は付着せずに先端まで行ってしまう、と考えられるよ。

この性質は、水銀のような金属元素では現れる一方で、ラドンのような貴ガス元素なら現れない性質となってくるよ。

ということで、フレロビウムが酸化物になっているという極めて低い可能性を除外すると、今回の実験結果はそのままフレロビウムの性質として記載できることになるよ。

つまり、フレロビウムは水銀よりも揮発しやすいという、知られている中で最も揮発しやすい金属であり、一方で貴ガスではないことが明らかになったんだよ!

これにより、フレロビウムは化学的性質がきちんと調べられた最も重い元素となったんだよ!そして狙い通り、とても奇妙な性質を持っていることもわかったんだよ!

重い元素の化学は、私たちの生活とも無縁ではない

さて、フレロビウムの性質が分かったところで、すぐに私たちの日常を変えるような発見や技術開発につながるかと言えば、さすがにそれはないよ。

かといって、これは単なる科学者の趣味じゃなくて、ちゃんと立派な超ウラン元素の科学として記載される重要なデータとなるんだよ。

フレロビウムがそうだったように、とても重い元素は周期表通りの性質は示さず、むしろそれとは外れた性質を示すことが今回のように判明しているよ。

ただし、どの程度外れているのか、という予測については現在でもほとんど明らかになっておらず、今回のように事前の予測とは異なる結果が得られることもしばしばだよ。

そして、実験で明らかになった結果から、化学的性質を予測する理論を修正していくことで、少しずつ理論は完成に近づいていくよ。

この理論は、決して超ウラン元素限定ではなく、もっと軽い元素の化学的性質をより正確に予測し決定していく理論として使えるよ。

例えば、化学工業で欠かせない存在である触媒の性質は、現在でも予想外な性質が現れることがしばしばあり、研究者を悩ませているよ。

超ウラン元素の化学的性質から理論を修正していけば、極めて難しい化学である触媒化学などの最先端研究にもより正確な予測を提供してくれるようになるはずだよ!

そしてそれは、巡り巡って私たちの生活を変えるような技術になってくれるかもしれない……直接実感はしないかもだけど、そういう可能性は全然あるんだよ!

脚注

[注1] 基本的に見当たるのは1番元素の水素から92番元素のウランまで ↩︎
多くの本ではこのように書かれるが、厳密には異なる。ただしそれは以下のように相当ややこしいことから、多くの本では厳密性を省かれる。具体的には、43番元素のテクネチウムと61番元素のプロメチウム、そして84番元素のポロニウムから94番元素のプルトニウムまでのうち90番元素のトリウムと92番元素のウランを除いた9元素、の合わせて11元素は、天然に存在するとはいえ極めて微量であり、通常は存在しないとみなしていいほどの少量しかない。

[注2] 原子番号が100番を超えるような元素 ↩︎
ある程度 "大量" に手に入る元素は100番元素のフェルミウムまでであり、これは原子炉の連続運転で合成可能な最も重い元素だからである。101番元素のメンデレビウム以降は原子炉では合成できず、加速器で数えられる個数の原子を合成するしか手段がない。

[注3] 最外殻電子 ↩︎
電子は原子核の周りを決まった軌道で公転しているとみなすことができ、最も外側の軌道に存在する電子を最外殻電子と呼ぶ。元素の性質は基本的に最外殻電子に含まれる電子の数で決まるものの、後述するように必ずしもそうではない。

[注4] 水銀や鉛 ↩︎
水銀は室温で唯一の液体な金属である。鉛は炭素族に属するが、他の元素で通常安定である4価よりも2価の方が安定する。このように周期表通りにいかない性質は、他の重い元素にも観られる。

[注5] フレロビウムの性質はとても注目されているんだよ ↩︎
フレロビウムが注目されている理由の1つが科学的性質の著しい変化にあることは間違いないが、もう1つ大きな理由もある。フレロビウムは周辺の原子核と比べて比較的安定であることが予測される安定の島に位置しており、原子核の物理学的な性質の面でも興味深い対象だからである。ただし今回の解説の本筋とは関わらないため、今回は割愛した。

文献情報

[原著論文]

  • A. Yakushev, et.al. "On the adsorption and reactivity of element 114, flerovium". Frontiers in Chemistry, 2022; 10, 976635. DOI: 10.3389/fchem.2022.976635

[参考文献]

  • "An den Grenzen der Chemie: Eigenschaften des bisher schwersten untersuchten Elements bei GSI/FAIR gemessen". (Sep 15, 2022) GSI Helmholtzzentrums für Schwerionenforschung.
  • Kenneth S. Pitzer. "Are elements 112, 114, and 118 relatively inert gases?". Journal of Chemical Physics, 1975; 63, 1032. DOI: 10.1063/1.431398
  • B. Hammer & J . K. Nørskov. "Theoretical surface science and catalysis—calculations and concepts". Advances in Catalysis, 2000; 45, 71-129. DOI: 10.1016/S0360-0564(02)45013-4
  • Wenjian Liu, et.al. "Spectroscopic constants of Pb and Eka-lead compounds: comparison of different approaches". Advances in Quantum Chemistry, 2001; 39, 325-355. DOI: 10.1016/S0065-3276(05)39019-8
  • Peter Schwerdtfeger & Michael Seth. "Relativistic Quantum Chemistry of the Superheavy Elements. Closed-Shell Element 114 as a Case Study". Journal of Nuclear and Radiochemical Sciences, 2002; 3 (1) 133-136. DOI: 10.14494/jnrs2000.3.133
  • Alexander Yakushev, et.al. "Superheavy Element Flerovium (Element 114) Is a Volatile Metal". Inorganic Chemistry, 2014; 53 (3) 1624-1629. DOI: 10.1021/ic4026766
  • Lotte Lens, et.al. "Online chemical adsorption studies of Hg, Tl, and Pb on SiO2 and Au surfaces in preparation for chemical investigations on Cn, Nh, and Fl at TASCA". Radiochimica Acta, 2018; 106, 12. DOI:  10.1515/ract-2017-2914
彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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