前頭側頭型認知症発症機序についてのパラダイムシフト(3月28日 Nature オンライン掲載論文)

2022.05.06

多くの神経変性正疾患では、細胞内外に不溶性蛋白質の繊維様の構造体、アミロイドフィブリルが形成される。例えばアルツハイマー病では細胞外のアミロイドβ と細胞内のTau、パーキンソン病やレビー小体認知症では αシヌクレインのフィブリル形成が細胞変性を誘導する。


同じような蛋白質として最近注目されてきたのが TDP-43 で、人格変化や行動異常を伴う、大脳前方の萎縮による認知症として知られる前頭側頭型認知症(FTLD) やALSでは TDP-43 のフィブリル形成が神経変性を誘導すると考えられてきた。


今日紹介するUCLAからの論文は、FTLDがTDP-43 のフィブリル形成により起こるというパラダイムを、TMEM106Bと呼ばれるリソゾーム蛋白質によるフィブリル形成が原因であると、完全なパラダイムシフトを迫る研究で、3月28日、Natureオンラインに緊急掲載された。


タイトルは「Amyloid fibrils in disease FTLD-TDP are composed of TMEM106B not TDP-43(FTLD-TDPのアミロイドフィブリルはTDP-43ではなくTMEM106Bにより形成される)」だ。


FTLDはTDP43 意外にも、FUS蛋白質やTau蛋白質の蓄積でも起こることが知られており、フィブリル形成を起こした蛋白質によりFTLD-TD、FTLD-FUS などと分類されてきた。FTLD-TDはフィブリルが TDP-43 に対する抗体で染色されることから、TDP-43蛋白質がフィブリル形成を起こした群として扱われてきた。


この研究の重要性は病理的にFTLD-TDと診断されているにもかかわらず、アミロイドフィブリルは本当にTDP-43から出来ているのか疑ったことにつきる。


まず、アミロイドフィブリルを分離し、一般的なアミノ酸組成の検討ではなく、まずクライオ電顕で得られた構造から、TDP-43から構造が出来ると仮定すると、多くの矛盾が生まれることに気づく。


そして、得られる構造を形成できる唯一の蛋白質としてTMEM106B を特定することに成功している。


このモデルに従って、TMEM106Bのアミロイドフィブリル構造及びその形成過程について検討し、


1)TMEM106Bはリソゾーム蛋白質で、アミロイドフィブリル形成が起こるためには、119/120番目のアミノ酸部位で切断され、リソゾーム内に放出された分子が、フィブリル形成し、細胞質に吐き出されて蓄積する。


2)構造は、ゴルフコースのように18の β シートが重なっており、これまで知られているフィブリルの中でも安定性が極めて高い。


3)構造から、おそらくフィブリル形成を促すリガンドが存在するが、特定は出来ていない。


4)TDP-43は構造化せずに TMEM106B フィブリルないに潜り込んでいるため、抗体でフィブリルが染まるという錯覚を起こしてしまった。


5)一方、フィブリルに構造化された TMEM106B を染色できる抗体はまだ存在せず、結果フィブリルがTDP-43 由来であるとする間違いにつながった。


6)TMEM106B はこれまでFTLDのリスク遺伝子として特定されていた。


という結果を得ている。


大きなパラダイムシフトで、これまでの病態を TMEM106B 原因説で見直すことで、病気を防ぐ介入方法の開発にまでつながることが期待できる、重要な研究だと思う。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。