病室を移動可能なポータブルMRI(4月20日号 Science Advances掲載論文)

2022.05.07

MRIは原理を聞いても、未だに何故あれほど素晴らしい画像が得られるのか、イメージできないぐらい素晴らしいテクノロジーだと思う。そして、プロトンの共鳴を高めるため、これまで静磁場のレベルを上げて、高い解像度を得る方向に機器は開発されてきた。


現在一般に使われる MRI は1.5テスラらしいが、私が検査を受けたときも、世界で1例という希なケースではあるが、検査室のドアが開いていて、ボンベが飛んできて亡くなった例があるという話を聞かされた。


これは危険があると言うより、まずないという意味で使われているのだが、ボンベを引きつけるぐらいの磁場が存在している。従って、磁場を完全に遮蔽した状態で検査を受ける。


当然 MRI をもっと手軽に、病室でも使えるようにしようと思うと、共鳴させるために磁場は絶対必要なので、磁場の強さを抑えるしかない。


今日紹介するイェール大学とハーバード大学からの論文は、磁場を25分の1に抑えた MRI を開発し、迅速な脳卒中診断が可能かどうか調べた観察研究で、4月20日号 Science Translational Medicine に掲載された。


タイトルは「Portable, low-field magnetic resonance imaging enables highly accessible and dynamic bedside evaluation of ischemic stroke(ポータブル低磁場磁気共鳴画像装置は、虚血性卒中にどこでも使えてベッドサイドでダイナミックな評価を可能にする)」だ。


現代の情報処理技術を見ていると、低磁場によりシグナルが低下しても、検出をうまくやることでそこそこの画像を得ることが出来るのだと想像するが、開発の焦点などは全く専門外なので省く。


結果生まれたのが、昨年、Nature Communications(オープンジャーナル)に写真が掲載されている1.5x1.5x1.5程度の、しかもほとんどシールドがない装置だ(写真のURL: https://www.nature.com/articles/s41467-021-25441-6/figures/1)。


基本的には、ERでも利用できると言うことで、他の機器に影響を及ぼさない程度の磁場でとどまっている。


2021年の論文では、診断が優しい脳出血についてベッドサイド診断の可能性を示しているが、今回はCTでは診断が難しい虚血性脳梗塞部位の診断が出来るか、一般的 1.5or3T のMRIでの画像と比較している。


画像も、一般にルーチンとして知られる、T1強調、T2強調、FLAIR、そして拡散強調画像を集めている。結論はシンプルで、脳梗塞であれば大体9割が、ポータブル方で診断可能で、T2強調や、FLAIRでは、普通のMRIと比べてそれぞれ98%、100%の一致が見られている。


また、ポータブル法で得られる診断結果は、高速の大きさ、病状の深刻さ、さらに予後を十分予測できる検査として使える。勿論、拡散強調画像のように、超急性期の診断では、見落としもあるので、大いに改善の余地はある。


ただ、ERでも使えること、さらにCovid-19のような感染症でも利用できるという大きなメリットを考えると、より多くの施設で使われ、必要な改善を加えることで、大きな戦力になっていくことが予想できる。


さらに、AIなどが加わると、磁場を上げなくとも、高い診断能力が可能になる可能性もある。


以上、MRIがポータブルになると誰も考えもしなかったが、この機械は結構ヒットする予感がする。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。