ビオンテックとモデルナワクチンの差を詳細に調べてみる(5月18日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022.05.28

今回のパンデミックでワクチンモダリティーとしての mRNA ワクチンの評価は定まった。またこれに集中してきたビオンテック、モデルナに何兆円ものキャッシュが流れたことで、感染症だけでなく、ガンワクチンなどの開発が急速に進むと期待できる。


すなわち、今回のワクチン競争の結果、将来投資に大きな差がついたことは間違いない。さらに、ワクチンのフォーミュレーションは、配列を除くとほぼ同じなので、認可の仕組みもかなり変化する予感がする。


実際、個人用ガンワクチンを考えると、製造過程に対して認可が行われ、それに従っておればプロダクト自体はそのまま認可するということが重要になる。


このように、医療の世界を大きく変化させた両社のワクチンだが、使われている遺伝子配列は、導入した変異も含めて同じだが、lipid nanoparticle のフォーミュレーション、注射量、そして注射間隔で異なっている。


これまで、副反応の差については示されてきたが、効果についてはほぼ同じ有効性を持つというのが公式見解だった。


今日紹介するハーバード大学からの論文は、両者の差をもう一度詳しく調べ直した研究で、感染防御に関する差になったかどうかは別として、誘導される抗体には明確な差が存在することを明らかにした。


タイトルは「mRNA-1273 and BNT162b2 COVID-19 vaccines elicit antibodies with differences in Fc-mediated effector functions(mRNA-1273とBNT162b2ワクチンはFcを介するエフェクター機能の異なる抗体を誘導する)」だ。


タイトルの mRNA-1273 はモデルナ、BNT162b2 はビオンテックワクチンを指している。研究は特に変わったことを行っているわけではなく、私たちと同じプロトコルで2回ワクチン接種を受けた人の血清を採取し、抗体の特異性や、性質を調べているだけの研究だ。


また基本的にはこれまでのコンセンサスを覆すものではなく、感染者と比べても、mRNAワクチンはウイルスがホストに感染するときに必要な部位に対する抗体を誘導することが出来ている。ワクチン自体は武漢型配列を基盤にしており、両社で配列に差はないので、様々な変異株に対する反応も特に変わりはない。


ただ、クラススイッチの起こり方が異なる IgA および IgG2 の反応は、間違いなくモデルナワクチンが高い。また、抗体の Fc 部分の機能を反映する、白血球の貪食能誘導やNK細胞活性化で見ると、やはりモデルナワクチンが強く誘導される。


感染防御には IgA が有効という話もあるので、この点ではモデルナが優れていると言えるかもしれない。


そして最も驚いたのが、誘導された抗体から、スパイクを介する感染に必要な受容体結合抗体を除いた後、抗体依存性細胞障害性、NK活性化、白血球貪食誘導などを調べてみると、ビオンテックの場合活性が低下するのに、モデルナの場合は活性がそのまま残る、あるいは上昇するケースも観察できる。


結果自体はバラツキが大きく解釈に注意は必要だが、モデルナワクチンは、中和抗体以外にも、他の抗ウイルス活性を持った抗体が誘導されている可能性もある。


以上が結果で、私のように3回ともビオンテックという人間にはちょっとがっかりの結果だが、このような詳細な違いを調べることが、最終的なワクチンのフォーミュレーションにつながる。


特に差はないと済ましてしまわない好奇心がこの研究の全てだと思う。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。