脳構造のデータベースの情報処理(4月6日 Nature オンライン掲載論文)

2022.04.19

MRIにより精密な脳画像を得られるようになって、脳の構造と病気の関係について多くの論文が発表されてきた。例えば統合失調症や自閉症が特定の脳構造の異常を示すことが知られるようになった。


ただ、これが遺伝的異常なのか、発生段階での障害なのか、あるいは発達期の違いなのかを決めることは簡単ではない。


例えばよく知られる自閉症での扁桃体の増殖は生後1年目ぐらいから明らかになる。すなわち、原因なのか結果なのかを決めるのは難しい。記憶でもそうで、ロンドンのタクシー運転手になって一年もすると、海馬のサイズが増加することすら報告されている。


このように遺伝と環境が複雑に絡んだ脳構造と行動の関係を理解するための最初の条件は、変化を数値化して、人間集団の平均値とバラツキの程度をまず明らかにする必要がある。


今日最初に紹介する4月6日、ケンブリッジ大学を中心とする多くの研究機関が共同でNatureにオンライン発表した論文は、これまで様々なデータベースに集まっている10万人以上のMRI画像を同じプラットフォームに整理し直し、数値化することで、今後、病気を含む他のパラメーターと相関させるための基盤を作ろうとした研究だ。


具体的には、大脳の灰白質容積、白質容積、皮質下の灰白質容積、そして脳室容積などを数値化する方法を示している。


勿論男女差は大きく、また変異も大きいが、灰白質、白質ともに胎生から生後急速な拡大を示し、12歳ぐらいから減少し続けて100歳に至るという平均的軌跡を示されると、私のような老人には感慨が深い。


脳が縮小するのとは逆に、脳室の大きさが急速に拡大するのも印象深い。


一方、こうして数値化した脳容積を病気と相関させると、アルツハイマー病だけでなく、軽度認知障害や統合失調症でも、数値の低下が認められることを明らかにしている。


いずれにせよ一般検査と同じなので、バラツキは承知の上で、新たに測定した脳画像の数値から異常を抽出できるか検討し、同じ機械で100例以上検査した場合は、異常を診断してピックアップできることも示している。


しかし、ここからさらに構造と機能の理解を進めるためには、一つのパラメーターとの相関だけではなく、いくつかのパラメーターとの相関も合わせる多因子相関解析が必要になる。この研究も、新しく数値化された指標を元に、今後はその方向に進むと考えられる。


これとは独立に、この将来の課題、すなわち脳機能や病気との相関について信頼できるデータを得るためには、何千もの脳画像を集めることが必要であることを、統計学の立場から検討したのが3月16日、ワシントン大学を含む多くの研究室からNatureに発表された論文だ。


この研究では、若年者の精神発達を調べる1万人規模のコホート対象者の構造と領域間の結合性に関する画像を集め、脳全体の構造と症状との相関を調べるBWAS(brain wide association study)のために必要な測定の精度や、対象者の数について検討している。


それぞれの脳画像は、画像計測の方法や手技、個人の様々な変異などに影響された結果なので、異なる個人の画像を正確に比べることは簡単ではない。


この研究ではいくつかの構造パラメーターと、症状などのパラメータの相関を調べているが、予想通り、バラツキは大きく、信頼できる相関がとりにくい。。結局計算上、脳構造の影響をかなり正確に検出するには9500以上のサンプルが必要になると結論している。


また、複数の構造パラメータとの相関を総合して診断する方法も試みているが、2000人のデータがある場合でも信頼できる判断が難しいことが示されている。


以上が結果で、考えてみると、最初から数値として示されないデータを数値化して相関を調べていくことの難しさがよくわかる。しかし少しづつとはいえ、この基盤が形成されつつあるとまとめていいのだろう。


このような基盤の必要性を物語る、ゲノムと脳構造の研究について、明日はまとめてみる。

オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。