魚は足し算引き算ができる!脳の仕組みが異なっても備わっている計算能力

2022.04.20

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、魚類は1から5の範囲で足し算と引き算ができるというお話だよ!

単純に物の数を把握する能力は多くの生物に知られているけど、今回の研究ではルールを理解した上で足し算や引き算ができると証明したんだよ!どうやって証明したのかな?というところを解説するね!

数を知る事と計算できる事は大違い!

数個の物を目の前に出された時、それをいちいち数えなくても、パッと見で3個とか5個とか数を知ることができるよね?

この、物の数を把握する能力は、全ての脊椎動物のグループといくつかの無脊椎動物で実験的に証明されているから、多くの動物に共通する能力と分かっているよ。

物の数を把握する能力は、餌を取ったり、捕食者を回避したり、繁殖相手を決めるなど、動物が生存し、子孫を残す上で必要だからこそと言われているよ。

一方で、それより一歩進んで、物の数について単純に知る、あるいは数えるだけでなく、足し算や引き算などの計算問題 (算術問題) を解決できるかどうか、という計算能力 (算術能力) については、あまり多くの事は分かっていないよ。

今のところ、チンパンジーやオランウータンなどの霊長類、ヨウムなどの鳥類、クモやミツバチは、全体の個数が少ない範囲ならば、一定のルールを訓練して覚えさせて、足し算や引き算ができる事が確認されているよ。

例えばミツバチの場合、足し算や引き算を表すプラスマイナスの記号の代わりに、特定の色を足し算引き算に当てはめる事でルールを覚えさせる事ができると分かっているよ。

無脊椎動物であるミツバチに足し算引き算ができるなら、同じ脊椎動物の魚類にできてもいいと思うかもしれないね。

これまでのところ、魚類も物の数を認識したり、2つの物の数の大小関係を比較する能力がある事は確かめられているよ。

その多くは、一度に認識可能な数は3個から5個の範囲で、例えば3個と4個なら4個の方が多いと分かっても、4個と5個ではどちらが大きいか分からない、という限界がある事が分かっているよ。

ただし、ごく一部の種については、他の魚類よりも認識能力が高い事も分かっているよ。

魚に足し算や引き算はできる?その前にどうやって知る?

今回の研究では、「シュードトロフェウス・ゼブラ (Pseudotropheus zebra)」というシクリッドの1種と、「ポタモトリゴン・モトロ (Potamotrygon motoro)」という淡水性のエイの1種を対象に実験を行ったよ。

これらの種が選ばれたのは、他の魚類と比べて物の数の認識能力が高い事が分かっている事、そして飼育や実験、訓練がしやすい事が理由としてあるよ。

今回の実験では、ミツバチの計算能力を証明した方法と似たような手法を使って、魚類にも計算能力があるのかどうかを調べたよ。

魚の計算能力を知るために、2つの部屋に区切った水槽を用意したよ。

ではどうやるのか。まず、水槽を2つの部屋に区切り、上にスライドする扉で仕切ったよ。この扉には最初に見せるマークが書かれているよ。

扉のマークを5秒以上見せた後、扉を開いて奥に進ませるよ。進んだ先には2つのマークがあって、1分の制限時間の間にどちらかのマークに近づいた事を選択とみなすよ。

訓練の段階では、扉をくぐってから正解のマークに近づくと餌を与える、という方法で、マークのどちらかが正解である事、マークと正解には一定のルールが存在する事を覚えさせるよ。

回数をこなして水準以上に到達したら訓練は終了。次は本番を行い、1分以内の制限時間で正解のマークに到達したら餌を貰え、不正解のマークに到達したら何も貰えない、と言う方法で計算能力を測るよ。

青色は足し算でプラス1、黄色は引き算でマイナス1を表すよ。

ところで、魚類の足し算引き算能力を測るのに使った計算ルールはいったい何かというと、こんな感じだよ。

白地にマークが1個から5個の範囲で書かれていて、色は1つの実験中では青色か黄色かどちらかに統一されているよ。形や位置はいろいろあるけど、これには意味を持たせてないよ。

色は重要な情報だよ。青色は足し算黄色は引き算を表していて、青色の場合にはプラス1、黄色の場合にはマイナス1をする、というルール付けになっているよ。

このルールに基づき、最初の扉に書かれたマークを観て、次の部屋で選ぶマークの正解不正解が決定されるよ。

例えば、最初の扉のマークが「青色で3個」なら、次の部屋での正解は「青色で4個」となり、「黄色で3個」なら、次の部屋での正解は「黄色で2個」となるよ。

魚は計算問題に取り組める!

今回の実験では、種としての能力差はあったけど、成績はとても優秀だったよ!

シュードトロフェウス・ゼブラ (シクリッドの1種) とポタモトリゴン・モトロ (淡水エイの1種) で訓練と実験を行ったところ、予想以上の成果が得られたよ!

まず、訓練に合格した個体は、シュードトロフェウス・ゼブラは8個体中6個体、ポタモトリゴン・モトロは8個体中4個体だったよ。

ただし、ポタモトリゴン・モトロの4個体のうち1個体は、その後のパフォーマンスが維持できなかったことから、3個体で本番を行ったよ。

そしてルールを覚えるのにかかった訓練回数は、シュードトロフェウス・ゼブラは28±18回、ポタモトリゴン・モトロは21±5回だったよ。

これを見てみると、シュードトロフェウス・ゼブラは全体的に覚える能力が高く、ポタモトリゴン・モトロはより速やかに覚える個体が一部にいる、と見えるね。

魚は足し算引き算のルールをちゃんと理解している!

重要なのは、単純な個数の大小関係だけでなく、ちゃんとルールに基づいて足し算や引き算ができるという点だよ!

例えば、色と足し算引き算を関連付けるとさっき言ったけど、例えば青色が足し算でプラス1であると言うルールを覚えさせるつもりが、単純に大小関係を比較したり、マーク1個分の差の比較を覚えさせている可能性もあるわけだよ。

魚語が分かれば聞いてみるのが一番だけどそうはいかないので、正解不正解の選択肢に正解と紛らわしい不正解を用意する事で、計算ルールを本当に理解しているのかを観るよ。

例えば、最初の扉が「青色で3個」とした時、選択肢を「青色で4個」と「青色で5個」とするよ。青色が大小関係の比較なら4個も5個も同じくらいの割合で選んでいるはずだけど、プラス1である事を理解しているなら4個の方を高い割合で選んでくれるはずだよ。

同じく「青色で3個」とした時に、選択肢を「青色で4個」と「青色で2個」とすると、青色を1個分の差で比較しているのか、あるいは本当にプラス1だと理解しているのかどうかを区別できるよ。

同じような実験は黄色でも行い、マイナス1である事を理解しているかどうかを実験的に区別できるようにしたよ。

実験の結果、全体としてシュードトロフェウス・ゼブラは7割くらい、ポタモトリゴン・モトロは9割くらいの正解率で正しいマークを選んでいたよ!

つまりこの2種については、きちんと足し算や引き算のルールを理解しているという事だよ!

しかも、ポタモトリゴン・モトロの方が良いという種での差があるけど、正解率そのものは足し算でも引き算でも大きな差が無かったよ!

どちらかの正解率が低い場合、足し算引き算と言う計算能力があるのかどうか怪しくなっちゃうけど、今回の場合はどちらもできるという点で、計算能力があるらしい事が高い確度で言えるわけ!

本来必要のない (はずの) 計算能力

おまけに、シュードトロフェウス・ゼブラとポタモトリゴン・モトロが足し算や引き算ができる事は、魚類全体を観る上でも重要だよ!

この2種は実験のしやすさと認識能力の高さで選ばれたけど、生態を見てみると、どちらも認識能力を具体的に利用している例が見当たらないんだよ。

例えば、いくつかの魚類ではオスとメス、あるいは個々の個体で身体の表面にある斑点などのマークの数や配列、色などの違いがある事で、性別や個体を区別できるよ。

こういう差がある魚類の場合、一度交尾した相手や競争相手、あるいはもっと単純にオスとメスを区別するために認識能力を発達させたと考えられるから、その上で計算能力があっても不思議ではないよ。

一方で、シュードトロフェウス・ゼブラとポタモトリゴン・モトロは特に個体差を区別する生態がある事は確認されていないから、高度な認識能力や、更に上の能力である計算能力は、本来は必要ないはずだよ。

必要がないと思われる計算能力を備えている事は、魚類には生体に関係なく広く計算能力が備わっている可能性を示唆するものだよね!

今回の実験では、少々謎も残されたよ。例えばシュードトロフェウス・ゼブラの一部の個体は、足し算より引き算の方が成績が悪かったよ。

これは、野生では多く数える機会の方が多い、例えば餌がより多く入手可能とか、そういう理由で起きている可能性もあるけど、詳細は分からないよ。

また、今回はミツバチの実験を参考にセッティングしたけど、ミツバチの実験では正解不正解に賞罰を与えていたのに対し、今回の実験では賞だけで行ったよ。賞罰両方ある場合に成績が変わるのかは未確認だよ。

計算能力はいつ備わったのかな?

つい最近まで、哺乳類は高等な脳を持ち、他の脊椎動物よりも脳の能力はかなり高い、という見方があったよ。

これは、脳の解剖学的構造や進化の順序など、様々な点から支持されてきた仮説だよ。ところが、近年の実験はそれに異論を唱えるものが相次いでいるよ。

今回の実験でも、計算能力のような高度な認識と処理を伴う能力を、特に必要なさそうな魚類においても存在する可能性が高い事を示した点で、とてもインパクトがあるよ。

魚類には、高度な計算能力を担う新皮質が存在しない、と長年の研究で見られているから、じゃあ脳のどこの部分で足し算引き算を行っているのか、と言うのは重要な疑問だよ。

魚類が計算できるという事は、脳の高次機能が進化のどの段階で備わったのか、というのを理解する点で重要だよ。

また、魚類に計算能力は必要ないという理解が間違っているかもしれないという点で、魚類の生態に関する研究に大きな影響を与えるかもしれないよ!

そして何より、しばしば無批判に言われる「哺乳類の脳は高等」という意識自体、ホントは誤りである可能性すら出てくるよ!

文献情報

[原著論文]

  • V. Schluessel, N. Kreuter, I. M. Gosemann & E. Schmidt. "Cichlids and stingrays can add and subtract ‘one’ in the number space from one to five". Scientific Reports, 2022; 12, 1. DOI: 10.1038/s41598-022-07552-2

[参考文献]

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  • Jennifer Dugas-Ford, Joanna J. Rowell & Clifton W. Ragsdale. "Cell-type homologies and the origins of the neocortex". Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2012; 109 (42) 16974-16979. DOI: 10.1073/pnas.1204773109
  • Vera Schluessel, Jenny Hiller & Monique Krueger. "Discrimination of movement and visual transfer abilities in cichlids (Pseudotropheus zebra)". Behavioral Ecology and Sociobiology, 2018; 72, 61. DOI: 10.1007/s00265-018-2476-8
  • Scarlett R. Hpward, Aurore Avarguès-Weber, Jair E. Garcia, Andrew D. Greentree & Adrian G. Dyer. "Numerical cognition in honeybees enables addition and subtraction". Science Advances, 2019; 5, 2. DOI: 10.1126/sciadv.aav0961
  • Martha M. M. Daniel, Laura Alvermann, Imke Böök & Vera Schluessel. "Visual discrimination and resolution in freshwater stingrays (Potamotrygon motoro)". Journal of Comparative Physiology A, 2021; 207, 43-58. DOI: 10.1007/s00359-020-01454-2
  • Vera Schluessel, Ingolf P. Rick, Friederike Donata Seifert, Christina Baumann & Wayne Iwan Lee Davies. "Not just shades of grey: life is full of colour for the ocellate river stingray (Potamotrygon motoro)". The Journal of Experimental Biology, 2021; 224 (9) jeb226142. DOI: 10.1242/jeb.226142
彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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