「アニメ」は日本経済の救世主となり得るか?-学術文献から見るアニメーションのトレンドと日本の強み-

2022.05.12 監修 VALUENEX株式会社

日本のアニメーションの市場規模は年々成長を続けており、2019年には国内外合計で約2.5兆円を記録しています。本記事では、統計的な分析手法であるクラスター分析を活用することにより、学術文献からアニメーションの技術や文化的影響を概観します。

※本記事は、VALUENEX社のレポートを簡単にまとめたものになります。全文のダウンロードは記事最下部のリンクより可能です。

アニメーションに関連した研究のマクロ動向

タイトル、要約、キーワードのいずれかに”anime”もしくは”animation”を含む学術文献42,355件(2021年4月時点)を収集し、分析を行う対象としました。

学術文献数は2005年頃までは増加傾向で、その後は横ばいが続き、毎年約2000件弱が発表されています。アメリカ、中国、イギリス、日本、ドイツ、カナダ、フランス、韓国、オーストラリア、台湾の順で文献数が多くなっており、日本を含め東アジア圏の国が上位に入っていることから、アニメーション分野における東アジアの影響力の大きさが示唆されています。


主要な著者別所属機関の所属国

 

次に、学術文献がどのような分野に発表されているかを分類しました。コンピュータサイエンスやエンジニアリング分野の論文数が多く、アニメーションの技術に関する学術文献が中心となっていると考えられます。その一方で、社会科学、アート、心理学分野の学術文献も多く出されていることから、アニメーションによる社会的影響に関する考察も多いと考えられます。

主要な投稿先学術分野

クラスター分析による研究分野の全体像の俯瞰

収集した学術文献のタイトルおよび要約情報から、VALUENEXDocRadarを用いて階層クラスター分析を行ないました。今回は文献同士の相互の類似度を数値化し、「距離」として測定します。類似度の高いもの同士は階層ごとに同じクラスターに併合し、可視化することで文献の全体像が把握できます。

クラスター分析…大量のデータから類似度の高いもの同士を集めて、クラスターと呼ばれるグループに分けるという統計的な分析手法

アニメーションの文献をクラスター分けした結果、「文化」「教育」「ゲーム・シミュレーション・XR」「医療」「表情・動き」「陰影・テクスチャ」「工業・化学」「その他」の 8 領域に分けられました。アニメーションの基礎技術からさまざまな分野での応用技術、アニメーションが及ぼす社会的影響といった幅広い分野の研究が存在します。それぞれの領域に集まる研究の内容をまとめると、以下のような傾向がありました。

文化:
映画やドキュメンタリー、ニュース等におけるアニメーションの影響力に関する研究。「日本のアニメーション」に関する研究領域が形成されており、影響力の高さが見てとれる。

教育:
マルチメディア学習やEラーニングといったアニメーションを用いた教育に関する研究

シミュレーション・ゲーム・XR:
群衆行動のシミュレーション、ゲームにおけるアニメーション技術、VRやARに関する研究

医療:
手術前の説明など、医療場面で用いられるアニメーションに関する研究

表情・動き:
人間の表情や感情、身体の動きを表現するアニメーション技術に関する研究

陰影・テクスチャ:
物体の陰影や表面構造、樹木や水面、頭髪といった特定の物体の質感を表現するアニメーション技術に関する研究

工業・化学領域:
工場における製品の組み立てや高分子化合物の組成をアニメーションで表現する技術の研究

その他:
手話や交通場面のアニメーション化技術に関する研究

クラスター分析でわかる研究分野のトレンド

アニメーションに関する学術文献のトレンドを明らかにするため、文献の発表期間別の分布変化を可視化しました。

2001年から現在に至るまで、特に表情とモーションキャプチャに関する研究は一貫して文献数が多くなっています。

次に、国別の研究にどのような違いがあるのかを見ていきます。

アメリカでは、表情およびモーションキャプチャに関する領域と、eラーニングや授業といった「教育」に関する領域に特に文献が集中していました。

中国では、表情およびモーションキャプチャに関する領域に最も文献が集中しており、教育に加え流体や衣服、布の表現などの基礎技術に関する文献も多い特徴がありました。

イギリスと日本でも、アメリカや中国と同様に表情およびモーションキャプチャに関する領域に文献が集中しているものの、その他に目立って文献が集中している領域はみられませんでした。

いずれの国においても、表情およびモーションキャプチャに関する領域に文献が集中しています。人間の複雑な表情や身体の動きをアニメーションで精緻に表現する困難さおよび重要性が示されており、これらの技術がアニメーションにおけるコア技術といえるのではないでしょうか。

研究の分布を2016年以降の文献に絞ると、コア技術である表情およびモーションキャプチャのに関する領域において中国の文献数が圧倒的に多く、近年は中国が技術リーダーとなっていることが見てとれました。アニメーションに関する基礎技術を発展させつつ、その技術を他分野に応用していこうという意図が読み取れます。

さらに近年新たに出現している研究分野はディープラーニング。ディープラーニングを用いた繊細な表情認識の学習および表情アニメーションの生成に関する研究が中心となっています。この分野での文献数も中国が最も多く、ここでも中国が技術リーダーであることが示されています。

「日本のアニメーション」領域について

「日本のアニメーション」に関する領域について分析を行うと、日本国内よりも海外の文献数が多く、かつ直近でも継続して文献が出されていることがわかりました。次に、日本のアニメーションに関する領域の海外文献について、キーワード集計を行います。

「日本のアニメーション」領域の海外文献における上位キーワード

culture”や“cultural”といったキーワードを含む文献では日本のアニメーションの文化的影響に言及しているものが多く、海外における影響力の大きさが見てとれます。

”character”や”narrative”を含む文献ではキャラクターの魅力や物語性に着目した研究が多く、これらの点が日本のアニメーションの強みであることを示唆しています。

おわりに

アニメーションに関する学術文献をクラスター分析することで、主要な技術領域やトレンド、国別の傾向などが明らかになりました。

技術分野では、人間の複雑な表情や身体の動きをアニメーションで精緻に表現する技術が特に重要であり、当該分野では直近では中国が技術リーダーとなっていることがわかりました。

日本も他国と同様、表情とモーションキャプチャに関する研究に注力しているものの、直近における技術的な強みはみられませんでした。一方で、海外において日本のアニメーションのキャラクターやストーリー性が高く評価されているという示唆が得られました。

中国はコア技術でリードするだけでなく、教育分野等、異分野へのアニメーション技術の応用に関する研究を積極的に行っています。アメリカも同様に、教育やゲームにおけるアニメーション利用に関する研究が多くみられました。一方、日本については他分野へのアニメーションの応用に関する研究は少ないことがわかりました。教材などにアニメーションが使われることは多くあるものの、体系的な研究は行われていません。優れたコンテンツが意識せずに使われているとすれば、知らないうちに大きなビジネスチャンスを逃している可能性も考えられます。高い評価を受けるコンテンツを意識的に他分野に応用していけるかどうかといったことが、日本のアニメーション産業における課題であるといえるでしょう。

 

今回の分析では中国の技術的躍進が示されましたが、これはアニメーション分野に限ったことではありません。近年どの分野においても中国の技術発展は目覚ましく、単純な技術勝負では勝てないという技術分野も多くなってきています。そうした中で、いかにして日本独自の強みを活かした製品を作っていくかといったことは日本の各産業における共通課題であるといえます。また、優れた技術やコンテンツの他分野への応用についても同様に課題となっています。日本のアニメーションが独自の強みを活かして今後も市場を拡大していけるとすれば、他産業に対しても大きなヒントを与えると考えられます。日本のアニメーションの今後に注目していきましょう。

 

 

 

今回の階層クラスター分析に利用したVALUENEX Radar-Documents-では、論文、特許、ニュース、SNS、アンケート、コラム、企業情報、財務報告書、顧客からのフィードバック等、お手持ちのテキストデータを、種類やジャンルを問わず解析することができます。データベースからでは見えなかった全体像から傾向把握や将来予測をはじめ、ビジネスプランへのヒントを俯瞰図から読み解くことで、さまざまなビジネス戦略において、事前調査からアクションプランの立案まで、幅広い意思決定のシーンで活用できます。

本記事のベースとなったレポートの全文が読みたい方は以下よりダウンロードが可能です(要会員登録)

階層クラスター分析についてのお問い合わせ

階層クラスター分析に関する疑問や質問、活用に関してなどございましたら下記よりお気軽にお問い合わせください